A01 『振り返る。一体僕は、いつ、何を間違ってしまったんだろうか』 B01 「お、ちょうどいいところに。紹介するよ、俺の彼女」 C01 「初めまして」 A02 『はじめは感じのいい子だと思った。    友人は男の僕から見ても厭味のないイケメンで、だから少し地味ではあるが    優しそうなその子とはお似合いだと。    けれど』 C02 「あの……実は、相談があるんです。……彼のことで」 A03 『今思えば、僕はこのとき話を聞くべきじゃなかった。    彼女と2人きりになること自体、避けるべきだったのだ』 A04 「暴力?あいつが?」 C03 「信じられないのは無理もないですよね……。    私だって、あなたの立場なら信じられないです。でもほら」 A05 『見せられたのは、上腕の青黒いあざ。    夏だというのに長袖を着ていたのはこのためだったのかと思い、それでも僕は    違和感を拭えなかった    友人はたとえどんな理由があったとしたって、女性に暴力を振るう人間ではない。    でも、それを目の前の彼女に言うことは出来なかった』 C04 「助けてください、お願い……!」 A06 『大きな目に涙をいっぱいに溜めて、僕にすがり付いてくる彼女を振り払うこと    は出来なかった。そしてそれもまた、間違いだった』 B02 「何、してるんだ……?」 A07 『怒りを湛えた低い声が響いた。彼女ははっとしたように僕から離れる』 B03 「おい、何とか言えよ!」 C05 「違うの!この人は悪くないの、私が」 A08 『待て。彼女は一体、何を言おうとしている?』 C06 「私が悪いの……この人を、拒めなかったから」 A09 『人の怒りが沸騰する瞬間を、僕は初めて見た。    怒りのままに振り下ろされた拳が僕の頬を打つ。    倒れた僕を見下ろしながら、あいつは吐き捨てるように一言』 B04 「裏切り者」 A10 『そう言って、出て行った』 C07 「ごめんね……?ごめんなさい」 A11 『ハンカチで僕の口元を拭おうとする彼女を、僕は無言で振り払った』 C08 「初めて見たときから、好きだったの。あなたのことが」 A12 「……は?」 C09 「なのにあいつが、いつもあなたの隣にいたから」 A13 『こいつは、この女は、一体何を言っている?』 C10 「こうすれば、あいつはあなたのそばからいなくなる。    あなたは、私だけのものになる」 A14 『陶然と笑う彼女が、心底気持ちの悪い生き物に見えた』 C11 「すきよ、だいすき」 A15 「触るな!」 C12 「……どうして、そんなこと言うの?」 A16 『意味がわからないとでも言うように不思議そうに首をかしげ、彼女は    近づいてくる。僕は慌てて逃げ出した』 A17 『アドレスなんて交換した覚えもないのに、メールの着信音が鳴り止まない。    僕はもうずっと、締め切ったアパートの部屋に閉じこもっている』 A18 『ふと、着信音が止んだ。恐る恐る、最後に来たメールを開いてみる』 C13 『みつけた』 (SE:扉を叩く音) C14 「ねえ、あけて。わかってるでしょう?   あなたにはもう、私しかいないのよ」 A19 『僕は一体、何を間違ってしまったんだろう?』