小さな頃、私は身体が弱く、いつも家の中にいた。 身体が良くなってからも、私は外の世界が怖くて家から出ようとはしなかった。 父は、そんな私に色々なものを買い与えた。 本、ビデオ、CD、パズル、ゲーム……。 そんな中で私が一番喜んだのは、とある絵の具セットだった。 「そらいろのえのぐ」 薄青いふたに、藍色の文字が8文字、大きく書いてあった。 それは24色の絵の具が入っていて、チューブには色の名前でなく、時間が書いてあった。 今日その日の、その時間の、空の色。 同じ時間のものでも、晴れた日ならばどこまでも青く、曇りの日ならうすい灰色。 夏ならば夜の色は少なく、冬ならば昼の色が少なくなる。 朝ならもやのかかった薄い青。昼なら白い雲がゆったりと流れ、夕方には美しい茜色をしていた。 私はその不思議な絵の具に夢中になった。 何枚もの白い画用紙をさまざまな空色に染めて、飽かず眺めた。 父が絵の具をくれてからちょうど一年目のことだ。 均等に使っていたわけでもなかったのに、昨日までは確かにたっぷりとあったはずなのに、絵の具はもうどの色もなくなってしまっていた。 私は寂しくて、普通の絵の具で空を描いた。 けれど、描いても描いても、あの絵の具の空は描けなかった。 私は仕方なく、スケッチブックを抱えて怯えながら外に出た。 俯けた顔を思い切って上げると、あの空が、画用紙よりも、天井よりも、ずっとずっと広くどこまでも続いていた。 本当の空は広く明るくて、どこまでも遠かった。 私は今も、空を描き出そうとしている。 画用紙の上のまやかしの空でなく、遠くまぶしい空に触れたくて、今もまだ絵筆を走らせている。