『世界がショートケーキになる確率』  21世紀の皆様、こんにちは。  こちら、27世紀からお伝えします。  さて皆様、我々が生きているこの世界。この世界が明日、ショートケーキに取って代わる確率 は何パーセントだと推測するでしょうか。  ゼロパーセント?  はい、その通り。  世界はショートケーキにはなり得ません。それとも何か根拠が必要ですか?言うまでもなく、 ゼロパーセントです。  ……21世紀の常識の範囲ならば。 「うわー!」 「助けてくれー!」 「ケーキが!ケーキがー!」 「ケーキがこっちに来るぞ!ショートケーキだ!」 「やめてー!私の子どもを生クリームまみれにしないでー!」  27世紀現在。  残念ながら、世界がショートケーキになる確率はそれなりに高いようです。 「白く……される……!塗りつぶ、される……!」 「クリームの津波が……!おお、おおおおお!!」 「世界の終わりじゃ。世界が……甘い香りに支配されておる……!」 「ショートケーキ……!ショート、ケェェェキ!!」  事の発端は実にシンプル。  ある日、ありとあらゆる在りものを、有無を言わさず生き物へと変えてしまう発明品が誕生し  たのです。 「人よ。青く小さな星にしがみつく孤独な存在よ。我々はひとりではない。この星には、我々と 対等にわかり合える生命が、いつだって無数に存在しているのだ。我々が知覚していないだけで そこの野良犬も、猫も、ミミズだって、オケラだって、アメンボだって、みんなみんな、生きて いるのだ、友達なのだ!この、『人並みの脳みそをゲッチュー☆生き物マッスィーン』の光をひ とたび浴びさえすればなあ!」  そんなこんなで、人々が身の回りのありとあらゆる物体を生き物に変えた確率。そして、その 中にたまたま生まれついてのド悪党の魂を持ったショートケーキが存在した確率。いかほどだと 思われますか?  27世紀現在。そんなこんなで、この世界はショートケーキに支配されています。  ですが、私たちは幸せです。 「うわぁー!」 「人だ!人が!」 「人間がやってきたぞー!」  ショートケーキが支配階級に上り詰めた現在。  ショートケーキたちは、ケーキ屋さんの力を借りずとも、自らの力で数を増やすことに成功し ました。  人間たちは美味しさで負け、あげく数でも負けて、政治的経済的ステージでショートケーキ立 ちに敗北を喫したのです。  しかし、それは我々人類にとって望ましいことでもありました。  だって、ショートケーキは……美味しいのですから。 「喰われる!我々は喰われる運命なのだ!」 「人は何故同胞(はらから)を喰らうのか!」 「ぎゃー!」 「美味しい!ショートケーキ美味しいのぉッ!!」  当然、政治的に勝利したショートケーキたちは治安維持機構すらも掌握し、今や警察すらも全 てショートケーキたちです。 「警察だ!」 「人間どもよ、蛮行をやめよ!」 「おとなしく手を挙げて、我々の言うことに従うのだ」  しかし……ご存じでしょうか。『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』。 「来るな!近づくと撃つぞ!」 「ば、馬鹿な……。効かないだと!?」 「それどころか、こいつら……弾丸を食べやがった!」  私ね。常日頃から思っていたのですよ。クリスマスケーキとかに良く乗ってるアレ。サンタさ んの形とかしてるアレ。マジパンっていうのですか?アレほんと、クソまずいですよね。何なん でしょう、あの砂糖菓子。ただの砂糖の塊。ああ、嫌だ嫌だ。はやくショートケーキで口直しし なきゃ。 「うわぁー!」 「ぎゃー!」 「喰われるー!」 「助けてー!」  つまるところ、27世紀現在。当分の間、世界はショートケーキにはならないようです。ちょっ とあやしいかな?ひょっとしてショートケーキになるかな?と考えられた時代もあったようです が、今やショートケーキは絶滅危惧種。政府機関によって丁重に保護され、今やチョコケーキや チーズケーキをショートケーキっぽく食べる方法が研究されている有様です。  どっとはらい。  めでたしめでたし。