『マシュマロをつくろう!』 A:男性。兄貴。田中。内弁慶というか猫かぶりというか、もしくは単にバカというべきか。 B:男性。弟。26歳ニート。ポジションはツッコミ。隠れ求道者。 C:女性。Aの職場の(自称)姫ポジション。なんか芝居がかってる。 D:男性。Aの上司。面倒ごとは若い衆に丸投げ。 A01「いるか、弟よ!」 B01「んだよ、何だよ、いきなり入ってくんなよ」 A02「おお、いたか。26歳職歴なし引きこもりニートの我が弟よ」 B02「うっせ、死ね!出てけバカ」 A03「ははは、愛してるぞ我が弟よ!ジュテーム!さあ弟よ、マシュマロつくるぞ、マシュマロ」 B03「は?なんで」 A04「それは明日がホワイトデーだからだ!」 B04「えっ……兄貴、チョコもらったの?……いや、そんなまさか」 A05「もらったさ!チロルチョコ10円分!」 B05「1個かよ!しかも小さい方かよ!くれるにしてもスゲーなその女」 A06「ああ。しかもウチの部署の全員にばらまいて、きっちりお返しも要求されてな……」 C01「野郎どもー!ハッピーバレンタインデー!さあさ、受け取って受け取って、私の愛のこもっ   た義、理、チョコひとり1個ずつ!ふふっ、ホワイトデー期待してますよ?――♪ほっわいっ   とでぃはー、3倍がーえしー♪」 D01「……田中」 A07「はい?」 D02「ここに、部署の男連中から集めた資金240円がある。ひとり30円掛ける8人分だ。どうやらウ   チのお姫様は3倍返しをご所望らしい。だから、な、……あとは頼んだ」 A08「はい?」 A09「……というわけだ」 B06「いや、確かに3倍返しなら予算30円になるだろうけどさ」 A10「我が上司は最低限の礼だけ尽くして適当にお茶を濁せと仰せだ!さてこの予算だ。240円。   まともなものなど買えやしない。だったら自分で何かつくるしかないではないか!なあ、我   が弟よ!」 B07「俺を巻き込むな!」 A11「働けニート!」 B08「うるっせえ!……それ言われたら何も言い返せないじゃないか」 A12「さて、それでは材料だ。まず砂糖、適量!ゼラチン、適量!コーンスターチ、適量!以上   だ!」 B09「へえ、マシュマロの材料ってこんなシンプルだったのか……っておい!」 A13「どうした、何か質問か?気持ちが乗ってきたではないか。やる気があることは良いことだ、   ウン」 B10「うっせ。……いや、俺お菓子づくりなんてやったことないけど、確かお菓子って分量スゲー   正確に計らないと失敗するって聞いたぞ。なんだよ適量って」 A14「なあに、そんなもん普段料理しない連中の戯言に過ぎん!分量計らなかったからって失敗す   るのはせいぜいスポンジケーキとかマカロンとかパンとかスフレとか」 B11「結構あるじゃねーか」 A15「だが男なら!自分の歩む道は自分で選べ!レシピブックに縛られていては己の目指す光すら   見失ってしまうのだ!……というわけで砂糖を適当にひとつかみ鍋に入れます」 B12「あっ。本当にやりやがった!」 A16「次にほんの少しだけ水を入れます。砂糖を溶かして煮詰めるための水だから、本当に少しだ   けな。風味付けにジャムとかはちみつとか入れても良いかもしれん。確かはちみつならお前   の部屋に山ほどあったろ」 B13「な、何故それを」 A17「さすがの俺もはちみつロー……あー、いや、なんでもない。気にするな。ドンマイ。とにか   く今回は使わないから忘れていい」 B15「ホントほっとけよ……」 C02『ぴんぽんぱんぽん。他人様に渡す食べ物に変なものを混ぜるのは犯罪です。他人様に渡す食   べ物に変なものを混ぜるのは犯罪です。慰謝料搾り取って半殺しにして10倍返しです。ぴん   ぽんぱんぽん』 A18「今回はちみつは使わないからこのまま火に掛けるぞ。改めて言うが、鍋の中は砂糖と水だけ   な。弟よ、適当にかき混ぜといてくれ。焦がすなよ」 B16「もうちょっと火加減とかかき混ぜ方のコツとか」 A19「そんなもん鍋の様子見て丁度良くやればいい。男とは!」 B17「あーはいはい」 A20「さて、鍋を火に掛けている間にゼラチンを水でふやかします。ゼラチンの粉に水をちょっと   入れて、なんか白いところが無くなるくらいにかき混ぜます」 B18「またそのパターンか」 A21「うむ。もちろん分量は適当だ!なあに、2、3回失敗すればちょうど良い量もなんとなくわか   るさ」 B19「最初から分量決めてくれれば失敗しなくて済むんだが」 A22「バカやろう!若いのが失敗を恐れてるんじゃない」 B20「お前いくつだよ!」 A23「さてムダ話してる間にいい感じにゼラチンがふやけてきたんで、このままレンジに入れて溶   かしてやるぞ。ところで鍋の方はどうだ?」 B21「水飴がグツグツいってる」 A24「もうちょい具体的に」 B22「いや、どうなれば出来上がりなのかわかんねーし。色は透明のまま変わらんし、さっきから   ずっと泡吹いてるし」 A25「細かい泡が全体に出てきたくらいが目安だな。掬ってみてとろみを感じたら完璧だ」 B23「じゃ、いいんじゃね」 A26「ならばゼラチンと合わせるぞ!溶かしたゼラチンをボウルに入れて、そこにつくった飴を少   しずつ、かき混ぜながら入れていけ。ゼラチンがダマにならずに混ざったらオーケーだ」 B24「おーけー」 A27「じゃ、混ぜろ!」 B25「いや混ぜたって」 A28「ここからが正念場!飴が冷める前に全力で泡立てるんだ!時間との闘い!1分1秒を争い、全   身全霊を泡立て機に込めろ!戦え、誇りある我が弟よ!」 B26「へ、いや、そもそもこれ兄貴のホワイトデーだよな?」 A29「悠長に口を開いている暇は無い!」 B27「う、うおおー!」 A30「なんて、正直やってられないくらいしんどいので、ここは素直にハンドミキサーを使った方   が良いぞ、視聴者諸君」 B28「先に言ええええええ!」 A31「というか初心者がここで人力にこだわっても十中八九失敗するからハンドミキサーを使った   方が絶対に良い」 B29「バカ兄貴ぃぃぃ!」 (SE:ギュイイイン、とハンドミキサーを回す音) B30「……で、これはどのくらい泡立てたら良いんだ?」 A32「ふわふわのもちもちになるまでだ!」 B31「まーたアバウトな……わっ、泡が、泡がミキサーを昇って根元まで!」 A33「あー、これは混ぜすぎだな。こうなると固すぎて形を整えるのが難しくなるぞ」 B32「いや、見てたんだから止めろよ」 A34「なあに、大した問題にはならん。では出来上がったマシュマロを絞り袋に入れて、平らな入   れ物に均等に絞り出せ」 B33「どうせ平らに絞るんなら、わざわざこのホイップクリーム絞るやつに入れなくても、ヘラで   均してやればいいんじゃねーの?」 A35「マシュマロが固くてひっつくからそれは無理だ。見栄えを気にするなら面倒でも絞った方が   いいな」 B34「この期に及んで見栄えを気にするとか、兄貴はもう少し人生を真面目に生きた方がいいと思   う」 A36「オマエモナー」 B35「ぐうの音も出ない正論を……スンマセンシター」 A37「さて、あとは冷めたら型を抜いてコーンスターチをまぶしたら完成だ。入れ物から出すとき   とか型抜くときとか、軽く温めた方が剥がしやすいからお湯を沸かしておくと何かと便利だ   ぞ。洗い物にも使えるしな」 B36「あー、終わった終わった。マジでなんで手伝わされてんだ俺」 A38「そういやマシュマロをフランス語でなんていうか知ってるか?我が弟よ」 B37「フランス語?」 A39「マシュマロはもともとフランスのお菓子だからな」 B38「いや、知らん」 A40「フランス語で『ギモーヴ』という」 B39「へー」 A41「キモーす(笑)」 B40「ぶっコロガす」