「ボーイ・ミーツ・ガール」 A:少年。原因不明の病もち。 B:少女。地縛霊。 A『その少女と出会ったのは、病院の屋上だった』 B「こんにちは」 A「こんにちは……?」 B「なんで、そんな不思議そうな顔してるの?」 A「だってここ、鍵かかってただろ?」 B「鍵?……ああ、そうかもしれないね」 A「何で入れたんだよ」 B「……同じ質問を返そうか、どうして君はここに入れたの? 鍵かかってたんでしょう?」 A「俺、合鍵持ってるもん。前入院したときに偶然見つけて コピーしたんだ」 B「じゃ、私も持ってるんじゃないかなー」 A「なんだよそれ」 B「……君は、病気なの?」 A「わかんね。……いや、病気だろうとは言われてんだけど、 なんなのか不明。異常もみつからねえんだってさ」 B「へぇ……」 A「お前は?病気?」 B「うん……いや、違うか。私はジバクレイだよ」 A「じば……じばく?」 B「地縛霊、いわゆるユーレイ」 A「はぁ?冗談も大概にしろよ」 B「ホントだって、ほら」 A『壁に向かって伸ばしたそいつの腕は、まるで水の中に手を 突っ込んだかのように、壁の中に消えた』 A「……なるほど、そりゃ鍵なんて必要ないわけだ」 B「怖がらないの?」 A「こんな間抜けな会話してる相手、今更怖がれるかよ」 B「それもそうか」 A「……なんか、未練とかあんの」 B「あるよー。親にね、謝りたいんだ」 A「先立つ不孝をお許しくださいってか?」 B「違うよ。……ひどいこと、言っちゃったから」 A「……そうか」 B「私もね、ずっと小さい頃から病気だったんだー。 一応病名もわかってたけど、治らない病気でさ。 延命治療っての?生きながらえるためだけの治療を してたわけ。……痛かったし、苦しかった」 A「……うん」 B「で、あるとき思わずさ。 『こんな体に生みやがって、死んでも恨んでやる』 って」 B「バカだよねぇ?親だってそんな風に生みたかったわけ ないじゃんね、金かかるし」 A「そうだな」 B「で、その日の夜に私、死んじゃってさ。 ずっと謝れてない」 A「そんで、地縛霊か」 B「そ。……何もかもを受け入れられてたら、私の世界は きっとビックリするほど単純だった。……そうしたら、 もっと楽に生きられたのかな」 A『その横顔は、思いがけず寂しげに見えた』 A「……お前の親、どこに住んでるんだ」 B「え?」 A「退院したら、様子見てきてやるよ」 B「えぇー?いいよ、そんなの」 A「いいから。ずっとここにいたいわけでもないんだろ」 B「まあ、ね」 A『あいつの言った住所には、別の家族が住んでいた。 近所中聞きまわって、俺はあいつの両親がもう亡くなって いることを知った』 A『次の入院が迫っていた』 B「お、久しぶり」 A「おう」 B「……ダメだった?」 A「何言ってんだよ、会えたさ。元気そうだったぞ」 B「……そっか」 A「お前の話色々してさ。笑ってくれたよ」 B「……ふふ、ありがと。お礼に、ちゅーをしてあげよう」 A「は?い、いらねえよ」 B「いいから受け取っておきなさいよ」 A『額へのキスを一つ落として、あいつは笑った』 B「ありがとう、ようやく願いが叶った気がするよ」 A「おい」 B「でも君、嘘が下手すぎ」 A『そよ風のような感触で、あいつの指が俺の頬をなでた。 俺はそこで初めて、涙が溢れていることに気付いた。』 B「さよなら」 A『最後に優しく微笑んで、あいつは姿を消した。 それから二度と、あいつの姿を見ることはなかった』 A『そして、あいつが病気まで持っていってしまったかの ように、俺は入院することもなくなった』 A「……なんだよ、お前もう十年も前に死んでるんじゃねえか……」 A『あいつの名の刻まれた墓石の前に、百合の花束を置く』 A『あいつの願いがなんだったのか、俺は時々考える。そしていつも、 同じ結論に至るのだ』 A『幼い頃から入院ばかりだったであろうあいつは、きっと俺と同じ 願いを持っていた』 A「なあ、お前も友達が欲しかったんだろ……?」 A『墓石は何も言わず、ただ静かにそこにあるだけだった』