A 普通の人 B 子供達の憧れの人物 A「すいませーん、これ、あの、ちょっとー? 落としましたよこれ、えーとなにこれ、ポケット? なんっかみたことあるなコレ あれ!! これもしかして四次元ポケッ……って、ちょっと、おとしましたってばー!」 B「あ……どうも、すいません」 A「いいえ、あのー失礼だと思うんですけど、もしかして?」 B「ええ……そうです」 A「うわっすごい! ほんとですか? いやー、じゃああの、もしかしてー……近くにいるんですか?   私、子供の頃大好きだったんですよぉー!」 B「ああ……すいません、今は僕一人なんですよ、アイツはずっと昔に帰っちゃいましたからね」 A「あーーっ!そっか、やっぱり、帰っちゃったんだ! うわー残念、会いたかったなあー」 B「はは、僕もですよ。会いたいです……いや、やっぱり…」 A「えー会いたくないんですか? どうして?」 B「なんか、合わす顔が無いって言うか」 A「へー何かあったんですか?」 B「何かも何も、だって大人になった、しかも横にアイツのいない、僕ですよ」 A「まあ、そりゃあ、まあそうでしょうけど、でもこうしてみると案外普通ですけどね、うん、普通」 B「全然、ダメなやつですよ相変わらず、ダメダメ人間です、今日だって大事な商談に寝坊してしまったんです  、勿論大事な書類も家に忘れて、スーツだってほら上下違うでしょう、無論靴下も裏返しです」 A「へー、まあそのくらいはねえ? 良くありますって、てか靴下は直せばいいんじゃないですか」 B「めんどくさいんです。で、やっとの事でたどり着いたと思ったら、今日、日曜日で会社休みでした。曜日、間違えてました」 A「ですよねー なんかおかしいと思ってた」 B「こんな僕を見たら、アイツ、がっかりするだろうなって。ほんとはね、落としたんじゃないんですよ」 A「えっ?」 B「それ……捨てたんです。いつまでも、もっていたって仕方が無いでしょう?」 A「そんな! だめですよ捨てちゃ。この中に色々入ってるんでしょう?」 B「からっぽです、アイツがね、帰るとき「君にはもう必要ないだろ」って言ってね  ははっ、じゃあなんでポケットだけ……」 A「……見たかったんじゃないですか?」 B「見たかった、何を? ポケットの思い出をですか? もう飽きるくらい眺めてきましたよ、いつか子供の頃みたいに  僕を助けてくれるんじゃないかって、でももういいんです、もう見たくない」 A「違いますよ……あなたが、これから、そのポケットに詰めていく何かを、貴方が貴方を助けるために自分で詰め込んだ秘密道具を  彼は見たいんじゃないですかね」 B「……まさか」 A「なんだって、いくらだって入るんでしょう? きっと貴方が年をとって、そのポケットがパンパンになるまで待ってるんですよ?」 B「……未来に対する希望的観測、貴方は子供の頃の僕みたいだ」  A「そりゃそうですよ、貴方の未来に希望が無いとしたら、彼はまだここにいるはずです、それが彼の役目だったんでしょう?」 B「どうだろう、あんまり僕がダメだから、愛想つかして帰ってしまったのかもしれないですよ」 A「ああ、その可能性もありますね。ならどうします? これは私がもらっていいのかな、正直言ってすごい欲しいです」 B「……もうすこしだけ、持っていようかな」 A「はい、どうぞ。次に捨てたら返しませんよ、代わりに私が貴方になります、ずっとそのポジションを狙ってたんですからね」 B「ありがとう……そうだ、明日はアイツの誕生日だから、何かプレゼントでも買って入れてみます。それじゃあ。さようなら」 A「さようなら、いつか、またどこかで会いましょう」