大輔01「なぁ、やっぱ女ってマーメイドに憧れたりするもんなの?」 麻奈美01「マーメイド?」 大輔02「うん」 麻奈美02「あー、ディズニー映画とかのプリンセス的な?」 大輔03「そうそう、そういうの」 麻奈美03「人によるんじゃないかしら」 大輔04「身もふたもねぇなぁ……」 麻奈美04「お姫様に憧れる気持ちは、どんな女子でももっているとは思うけど、いわゆるディズニープリンセスみたいなバタ臭い顔って、好き嫌いがあると思う」 大輔05「あー、そうかぁ…俺もなー、あの濃ゆぅ〜い顔つきはどうもなぁ」 麻奈美05「日本人受けは悪いのかもしれないわね」 大輔06「じゃなくて!」 麻奈美06「何?」 大輔07「ディズニープリンセス的なマーメイドじゃなくて、もっとこう、人魚!っていうの?そういう感じのに、憧れるのかって話!」 麻奈美07「人魚姫じゃなくて、人魚、っていう意味?」 大輔08「そうそうそう、そうだよ」 麻奈美08「うーーーーん……少なくとも、絵本の中に出てくるナントカ姫って名のつくものには、みんなそれぞれ憧れとかあると思うけど、あんたなんでそんな人魚にこだわるのよ」 大輔09「いや…いやさ、またどつかれる気がするんだけどさ」 麻奈美09「準備しておくわ」 大輔10「鈍器はやめて、しまって、おいといて」 麻奈美10「そう……」 大輔11「すっげー残念そう」 麻奈美11「すっげー残念だもの」 大輔12「危ない女だなーもう……」 麻奈美12「で?どつかれるような理由って何かしら」 大輔13「あの…あのさ、人魚ってさ、魚じゃん?」 麻奈美13「人魚よ?」 大輔14「人魚だけど! そうじゃなくて! 下は魚じゃん、腰から下は!」 麻奈美14「ああ、そういうことね」 大輔15「そういうこと以外に何があるんだよ……」 麻奈美15「で、魚がどうしたの?」 大輔16「魚だよ?」 麻奈美16「魚ね」 大輔17「ぬめっとして」 麻奈美17「ぬめりがあるわね」 大輔18「魚臭いじゃん」 麻奈美18「待って、人魚って魚臭いの?」 大輔19「それは俺も知らん! 知らんけど、腰から下に魚部分があるということは、当然腰から下は魚臭いと思う」 麻奈美19「言われてみれば…そうとも言えるわね。 むき出しだし」 大輔20「で、だ。 そんなぬめぬめした魚臭い半人半魚の生命体に、女は憧れるのかどうかという、そういうアレだ」 麻奈美20「そういうソレなのね」 大輔21「そういうアレなんだよ」 麻奈美21「私てっきり、腰から下が魚だったら使えねーじゃん性的な意味で、とか抜かしくさるのかと思っていたわ」 大輔22「いやまぁ、そういうソレもある」 麻奈美22「やっぱりあるのね」 大輔23「はい軽蔑のまなざしいただきましたー。 んでもさ、魚臭いのもやっぱ気になるじゃないか」 麻奈美23「腰から下が魚じゃなくても、魚臭い時点でお断りよね」 大輔24「魚臭い時点でお断りだ。 ぬめっとしてるのは大目に見れたとしても」 麻奈美24「大目に見るんだ」 大輔25「手間が省けるというか」 麻奈美25「生々しいわね下衆が」 大輔26「魚だけに! 生々しい!」 麻奈美26「はいドヤ顔いただきましたー。 いただきたくないけれども」 大輔27「っとまぁ、そんなもんに憧れる女子の気持ちは、俺にはさっぱり、さーっぱりわからんのだ」 麻奈美27「ふーん」 大輔28「なんだよその、全くもって興味ござんせん、みたいな反応」 麻奈美28「全くもって興味がござんせんのよ」 大輔29「言葉遣いおかしくなってっし!」 麻奈美29「だいたい、そんなくだらない話を聞かせるためだけにこんなところに呼び出したわけ?」 大輔30「ご不満か……」 麻奈美30「そりゃあね。 貴重な休日まるっと使って、あんたなんかと遊園地なんて」 大輔31「俺と遊園地なんてサイコーじゃん?」 麻奈美31「そうね、ゴキブリ寿司を食わされるよりはいいわね」 大輔32「比較対象が虫ーーーー!」 麻奈美32「せめて遊園地がピューロランドやディズニーランドクラスだったらよかったのだけれども」 大輔33「ピュー……え?」 麻奈美33「知らないの?」 大輔34「失礼な、俺だってディズニーくらいは知ってるぞ」 麻奈美34「あら、ガイドブック? ふーん、あんたでもこんなの読むのね……」 大輔35「ナイスガイはアミューズメントをパーフェクトにおさえてないとだからな」 麻奈美35「しっかりと書き込んであって、意外と使い込んでるのね…って」 大輔36「でもやっぱだめだなーそんなガイドブックじゃ。 誤字だらけで終盤イライラしてきたし」 麻奈美36「……ねえ大輔、ひとつ聞きたいことがあるんだけれど」 大輔37「おっ、なんだなんだ、なんでも聞いてくれちゃってオッケーだぜ? そのガイドブックならもう擦り切れるくらい読み込んでるからな、トイレで!」 麻奈美37「素手で触っちゃったじゃない!」 大輔38「うぉあっとととと! 乱暴に扱うなよ、ったく……んで?」 麻奈美38「あ、えーと、この…TDRのRを、全部、わざわざLに訂正してるのは、なぜかしら?」 大輔39「あーー、そのガイドブック誤植が多すぎてな、トーキョーディズニーランドのランドはL、A、N、D! RじゃなくてLだろ? ハイパー天才な俺がちょちょ、っとな」 麻奈美39「TDRはトーキョーディズニーリゾートの略よ……」 大輔40「…………へ」 麻奈美40「リゾートだからRよ」 大輔41「へ、へぇー……」 麻奈美41「ランドもシーもあわせてリゾートよ」 大輔42「そんくらい俺も知ってますけど?!」 麻奈美42「見苦しいわよ」 大輔43「はい」 麻奈美43「はぁ……バカが伝染しそう」 大輔44「ほんとはさー、俺だってTDR?だのなんだのに、ご招待したかったわけよ」 麻奈美44「予算がキツかったのね」 大輔45「んーまぁそれもあるけどさ」 麻奈美45「それだけじゃないの?」 大輔46「今日はだめなんだ」 麻奈美46「あら、なんでかしら」 大輔47「ほら、えーとどこだっけー…あったあった、ほれ」 麻奈美47「イベント、パレード?」 大輔48「期間限定パレードの最終日が今日なんだって。 多分今頃すっげー人まみれで、呼吸するのも難しいって」 麻奈美48「さすが夢の国ね、呼吸するにもお金がかかりそうだわ」 大輔49「そんなところじゃ落ち着いて話もできそうにないしさ」 麻奈美49「落ち着いて話がしたいだけなら何も遊園地じゃなくたってよさそうなものだけれども」 大輔50「ところがどっこい、そうはイカのキンタマよ」 麻奈美50「汚らわしい」 大輔51「ピー音はセルフサービスでな」 麻奈美51「面倒な人……」 大輔52「お前覚えてねーの?」 麻奈美52「大抵の事は覚えてるけど」 大輔53「つまり」 麻奈美53「覚えてないわね、っていうか何の話なのかすらわからないわ」 大輔54「この前言ってた気がするんだけど、遊園地行きたいって」 麻奈美54「うーん、ちょっと記憶にないわね…この前っていつ?」 大輔55「えっと、俺らが5歳くらいのときだから」 麻奈美55「どんだけ前?!」 大輔56「15年以上前?」 麻奈美56「どこが『この前』なのよあんたの周囲の時間の流れはいったいどうなってるの?!」 大輔57「時空の潮流を流離う俺!」 麻奈美57「そのまま流れていけばいいのに」 大輔58「流されない俺!」 麻奈美58「……っていうかよくそんなクソ昔の事覚えてたわね」 大輔59「ンマッ! 麻奈美ちゃんクソだなんて汚い言葉使って!」 麻奈美59「身近な人の言葉遣いが汚いのが原因よ」 大輔60「どこのどいつだー俺の麻奈美に汚い言葉使って接してる奴はー」 麻奈美60「目の前にいるわよ、あと勝手に私物化しないで」 大輔61「俺だー!!」 麻奈美61「とことん面倒な人……」 大輔62「ちっちゃい頃から一緒だった割には一緒に遊園地も行ったことねぇなーって思って」 麻奈美62「話題の切り替え早っ! 何、もしかして一緒に遊園地行きたかっただけなの?」 大輔63「ははー、そうだよー」 麻奈美63「じゃあ、最初の人魚の話題は何なの?」 大輔64「なんとなく、そのガイドブック見てて疑問に思ってたことを投げかけただけ」 麻奈美64「はぁ……他に一緒に行く相手もいないのはわかるけれども、毎度毎度思いつきに付き合わされる私の身にもなっていただきたいわね」 大輔65「他の奴はほら、皆誰かが誰かの所有物的な、充実した皆様だからさ」 麻奈美65「悪かったわね充実してなくて」 大輔66「いいじゃん、余りもの同士仲良くしようぜー」 麻奈美66「なにその妥協」 大輔67「流れに身を任せる俺!」 麻奈美67「流されないんじゃなかったのかしら」 大輔68「臨機応変で」 麻奈美68「たまには初志貫徹してください」 大輔69「はい」 麻奈美69「まぁ……あんたといると退屈しないからいいけれども」 大輔70「おっ、デレた? デレ期きた?」 麻奈美70「デレでもなんでもないわよ、この後寿司をおごってもらったりするから、一応感謝の態度よ」 大輔71「うえええええ?! 寿司ぃ?!」 麻奈美71「ゴキブリ寿司は嫌よ? あんたと休日を過ごすよりサイテーなんだから」 大輔72「いやそれは俺も嫌だけど!」 麻奈美72「回るのもだめだからね」 大輔73「うそーん!」 麻奈美73「当然でしょ? リアルを充実させるんだからね、余りもの同士で」 大輔74「聞いてないよー!」 麻奈美74「言ってないもーん」 大輔75「お給料がー!」 麻奈美75「入ったばっかりでしょ? あ、どこかに人魚食べさせてくれるお寿司屋さんないかしら」 大輔76「魚部分?」 麻奈美76「お寿司屋さんだから、魚部分なのかしら……?」 大輔77「そう考えると人魚ってお得だよなぁ……」 麻奈美77「肉部分と魚部分の両方が食べられる、ってこと?」 大輔78「そう……って――」 麻奈美78「そうね、肉部分は何の肉かと言われれば……」 大輔79「人肉かー!」 麻奈美79「ここは折衷案で、人魚肉ってことにしておけば、精神衛生上問題なく人魚を食べられそうね」 大輔80「いやいや、そもそも人魚置いてる寿司屋はないだろ」 麻奈美80「わからないわよ? 探せば一軒くらいは人魚肉を扱っている店があるかもしれない」 大輔81「ここらへんだけでどんだけ寿司屋あるんだよー」 麻奈美81「どうせ休日は始まったばかりなんだもの、ありもしないものを探して歩くのも楽しくていいかもしれないじゃない」 大輔82「んーまぁー、そういうもんか」 麻奈美82「遊園地よりは楽しそうでしょ?」 大輔83「そうだなー……うん、探すか! 人魚肉! 出発!」 麻奈美83「はぁ……こんなバカばかりやってるからお互いリアルが充実しないのよね……」