『戦乙女と愛の行方』 A:女性。白き乙女。博愛の精神に突き動かされて人々を導く少女。 B:黒の将軍。将としての理想と責任を抱く武人。 X:モブ。白の軍勢。信徒とでも呼ぶべき色を帯びつつある。 ナレーター:ナレーター。  ある日、少女は白い国の軍隊を率いていた。白い兜の兵(つわもの)たちを引き連れて、白銀 (しろがね)の鎧を身にまとい、真っ白な旗を翻しつつ、白馬にまたがり戦場を駆けていた。ち なみに逃げているわけではない。 A01「兵たちよ、私に続け!そして祖国に勝利を!全軍抜刀、突撃!!」 X01『おおー!!』 X02「白き祖国に栄光あれ!白き乙女に福音あれ!」 X03「我らに乙女の慈愛と祝福あれ!……ひゃっほう!」 X04「黒い奴らをぶっ潰すぜ!」 X05「乙女に続け!黒き軍勢に鉄槌を!」 X06「白に勝利を!黒に屈辱を!」 X07「今こそ乙女の愛に報いるとき!」 X08「乙女のために!」  白の国、先王の崩御に端を発した黒の国の侵略戦争。当初国力に勝る黒の軍勢が優勢であった この戦争は、白の国が新たな指導者を戴くことにより拮抗をはじめる。その指導者とは、荒みゆ く国においてただひとり瞳の輝きを失わず、切々と愛を説き続けた仁者。平民の出ながら、平民 からも貴族からも等しく愛されたひとりの少女。人々の呼ぶところの白き乙女であった。 A02「たくさんの方が傷つきました。たくさんの方が亡くなりました。ですが、どうか前を見てく   ださい。目を開いて、前を見てください。そこにあなたの愛する人がいます。父、母、子ど   も、兄弟、友人、仕事仲間、敬愛する恩師……。たくさんの方が亡くなりました。その中に   はあなたが愛した人も含まれるでしょう。それはひどく悲しい、痛ましいことです。ですが   前を見てください。今、あなたの目の前にいる大切な人。彼らの命が、今まさに奪われよう   としています。あなたの愛した人を刺し殺した槍が、今、まさに、彼らにまで、突きつけら   れようとしています。立ち上がりなさい!失いたくなくば、愛する人と共に生きるならば、   立ち上がりなさい。私は立ちました。あなた方と、共に、生きるために!」  人々は武器を取った。乙女と共に立ち上がろうと。この凛々しき乙女と生きようと。 X09『白き祖国に栄光あれ!白き乙女に福音あれ!』 X10『白き祖国に栄光あれ!白き乙女に福音あれ!』 X11『白き祖国に栄光あれ!白き乙女に福音あれ!』  白き乙女を切っ先として騎馬隊が黒い軍勢を切り裂いていく。騎馬隊の奇跡にはすかさず白い 旗の歩兵たちが雪崩れ込み、今や黒き軍勢は完全に瓦解した。あとは、乙女の目前に迫る敵の将 軍を捕らえるのみ。 B01「我こそは黒き軍勢を統べる将軍である。白の魔女よ、いざ覚悟!」  すかさず乙女の前に3人の兵たちが躍り出る。 X12「乙女よ!……ぐうっ」 X13「白き乙女にぃぃぃ!」 B02「くっ、どけ貴様ら!どかんか!」 X14「福音あれぇぇぇ!」 B03「ぐはっ」  勝負は決した。地面に引き倒された黒の将軍に、乙女が問う。 A03「黒い国はなぜ白い国に攻め込んだのですか?」 B04「魔女め……。知れたこと。我が国、黒い国の民を守るためだ」 A04「……え?」 B05「北方の赤い帝国が勢力を伸ばしつつある。かの国の脅威がここに届く前に、我が国は一刻も   早く力をつけねばならなかった」 A05「あなたは、あなたの愛する人々を守るために……」 B06「もはや黒い国は終わりだ。恨むぞ、人心を弄ぶ白の魔女よ。貴様さえ現れなければ、白の国   などとうに……。魔女め」  それは戯言に過ぎなかった。もとは黒い国が仕掛けた戦争だ。大義は白い国にある。しかし。 黒の将軍は、少女を魔女と呼んだ。魔女を恨むと。 A06「白い国の方は私を乙女と呼んで慕ってくれました。けれど……。いいえ、戦いは必要なこと   でした。私は白い国の人々を守りたかった。これ以上愛する人を失いたくなかった。けれど   ……。黒い国の人々を傷つけ、やがて赤い帝国の人も傷つけ、それから?いいえ、そもそも   私は白い国の人々も、この戦争でたくさん、たくさん……。ああ、それでも、大切な人がい   るのなら、私は立ち続けないと」 X15『白き祖国に栄光あれ!白き乙女に福音あれ!』 X16『我らに乙女の慈愛と祝福あれ!』 A07「……ああ、私にはこんなにもたくさん、愛する人々がいる」