『初恋がそらを蹴る』 きっかけらしいきっかけなんてなかった。 ただ、あの人が、私を見て笑ってくれた。 そんな、なんてありふれたストーリー! ガラスの靴も、毒りんごも、真っ赤なバラも必要なかった。 あの人を一目見ただけで、たまらず心がジャンプする。 バランスを崩す。 そして転ぶ。 世界が宙返りする。 ああ、通学路の空はこんなにも青かった。 ああ、コンクリートの地面はこんなにも暖かだった。 ああ、きっと私は恋に恋をしている。 けれどこの恋はあの人なしでは始まらなかった。 だって私、またあの人を探してる。 きっかけらしいきっかけなんてなかった。 ただ、あの人がいて、私がいただけ。 なんてありふれたストーリー! 微笑んで、赤くなって、世界がきらめくだけの恋心。 今日もあの人を見つめて、私の温度が上がっていく。 なんてありふれたストーリー! ラブレターも、キッスも、それからのことも今は知らない。 何もかもが輝きだした、そのひとつひとつを指折り数えて、 今はただ、この時間にもてあそばれていたい。 今日も私、あの人を見つけられた。 心がジャンプする。 世界が宙返りする。 お日様は今日も輝いている。 今日は、それから、目の前に大きな手のひら。 そう、 きっかけらしいきっかけなんて、本当はなかった。 あの人が知らない、そんな、私だけの内緒の思い出。