「また、後でね」 そう言って、彼女は屋上から飛び降りた。 さっきまで彼女が立っていた場所に、少し踵の高いローファーが几帳面に並べられていた。 私とお揃いで買ったばかりで、まだ、傷一つない。 両足が竦んで、私は動けなくなった。 まるで他人の足のように、言うことを聞かないのだ。 今にも雨が降り出しそうな空、冷たくなったコンクリート造りの屋上。 私と彼女の真新しい靴だけが、灰色一色の世界に取り残された。 鉛のように身体が重くなり、私はずるりと座り込んだ。 爪先をコンクリートに突き立て、彼女の残したローファーの近くへと這いずる。 彼女にしてもらった淡いピンク色のネイルがボロボロと剥がれた。 指の先が、ローファーに触れる。 私は、彼女が潰れたトマトみたいにぐちゃぐちゃになっているのを想像して、それ以上は前へ進めなかった。 それなのに。 (ここから、徐々に早口)真っ赤な水溜りに引き摺り込むように、青白い手が私の腕を掴んだ。 屋上の浅い縁に引っ掛かり、転がるように私の足からローファーが脱げる。 ふわりと身体が宙に浮き、青白い手が私から離れた。(早口終わり) 「また、後でね」 私は、彼女と同じ、潰れたトマトになったのだ。(ゆっくり、淡々と)