拝啓  親愛なる君へ ここ数日、どうしようかずっと迷ってる 自分の気持ちがどこにあって、それをどうしたいのか、解ってはいるんだけどね でも、こんな事は初めてなんだ……ていうか普通、そんなにある事じゃないでしょう? 迷ってる、どうしたらいいのかが、わからない。 だから、手紙を書いてみる事にした。 書いているうちに、なにか名案が浮かんでくれるかもしれないし。 とにかく書いてみるよ。 ここから先は、私の正直な気持ちだから もし、君に読ませたりしたら、気味悪く思われるかもしれないね その場面を想像するだけで、胃の近くにあるらしい謎の器官がぎゅうっとなって ひどい気持ちにおされてぐしゃぐしゃになってしまう 困ったな、ぐずぐずして申し訳ない いつものやつが来てるんだ 重くのしかかってくる感じの例の奴、しばらく私を苦しめた後で 勇気を残らず買い占めて、不安を置いて帰っていく、嫌な奴なんだ ……って、訳がわからないか こんな事を書いても仕方がない その……単刀直入なほうがせめて好ましい、のだろう、多分、この場合 ……「好きです」と書けばいいのだろうか? 色々と、書いては消したせいで、元々あまり綺麗な字じゃないのが 余計に読み難くなってしまったけど、許して欲しい というか実はこれ3枚目なんだ どうも私の手のひらは「好きです」に当たる部分にさしかかると 粘りつく液体を大量に分泌して、紙を汚してしまうようにできているみたい 軍手を使う事も考えたんだけど、絵的にどうかと思ってそれはやめておいた あぁ……すまない、また話がそれてしまった つまり、そういう事なんだ 申し訳ない……ごめんなさい。 君はなんでだか私にはとても優しい人だから 「謝るような事じゃないでしょ」なんて言いそうだけど これは、やっぱり、おかしい。 歪な形をしてると思う 私の頭の中にある辞書をめくってみても「好き」の項目に、こういうのは載ってないんだ 君も対処に困ると思う、だからごめん、本当にごめんなさい。 私がおかしくなってしまったせいで、君に嫌な思いをさせてしまうだろうね 叶うわけがない、歪な気持ちを、どうやったって君の心に無意味にぶら下げてしまうだろう だから、さ……今思いついたんだ 叶わない願いをぶら下げるには、他にもっと良い場所があるじゃないかって つまり、ほら、もうすぐ七夕じゃない? 今年もきっとあの植物を教室に設置するだろうから そこに飾ってしまおうかと思うんだ。 勿論、誰にも迷惑がかからないようにやろうと考えてる ちゃんと、そうとはわからないようにするから、安心して欲しい この手紙を書き終わったら、机の2番目の引き出しから鋏を取り出して 君と違って不器用な私は怪我をする可能性があるので、何回か深呼吸をして 気持ちが十分に落ち着いて、「えい!やろう」となってから 手紙の余白の部分で、ちょきちょきと短冊をこさえて、そのついでにね さっき、何度も書き直したあの部分だけ切リ抜いて、張りつけて 七夕になったら 誰も気が付かない隅っこに、ほんの暫くの間だけ そいつを飾らせてもらいたいんだ どうかそれぐらいは、勘弁して欲しい 長くなってしまったね、それじゃ最後に、親愛なる君へ 今日まで有難う……明日から宜しく!