やあ皆、昨晩は良く寝られたかな? まあ、あんな化け物みたいな要塞の目と鼻の先で、ぐっすり寝られるのなんか 共和国広しといえど、今、僕の目の前にいる君達ぐらいのものだろう……が なあカール少佐、せめて顔くらい洗ってきてくれよ。 全く、これから大事な話をするっていうのに緊張感に欠けてるな まあいいや、諸君、これがなんだか解るか? 見たところただの紙だ。だが何か書いてある 実は出兵前に、我らがレグリア共和国、陸軍元帥閣下殿が ありがたい事に、議長様の秘書官殿から直々に しかも手袋越しに手渡されたらしい。 開戦前に諸君らの戦意を鼓舞するために使えと仰っていた と言う事で、やっぱりこれはただの紙だ、ありがたく破らせてもらうとしよう いやー噂には聞いていたけど、実際見ると立派な要塞だな 戦の女神ラベルと名づけられるだけの事はあるよ。 知ってるかい? 皇国がラベルを建設してから今年で記念すべき100年目だそうだ 我々が、爺さんひい爺さんの代からこの要塞を攻め続けても、びくともしなかった まるで、一方的にチェリーパイを投げつけるみたいに兵隊をぶつけて、何十万という同胞が殺されたって言うのに それでも今日、僕たちはここにいる 戦の女神の呪いは100年経っても有効らしい やれやれ、パークビューの女より性質が悪い、国がまるごと誑かされてるんだからね さて、冗談はともかくだ。 順調に行けば日が沈む頃には、我々は投げつけられたパイよろしく全滅し 残兵狩りから生き残った何人かで徒党を組んで、 首都まで、気の遠くなるような距離を馬も無しで 山賊も裸足で逃げ出すような略奪を繰り返し 治安を悪化させながら帰ることになるだろう まあ、悲観的な事ばかり言っても仕方が無いな これは選択肢の一つに過ぎない もちろん、このまま首都まで取って返して議会を占拠してクーデター ってのも選択肢の一つだが我々は誇り高き共和国軍人だ 皇国の貴族達に蛮族呼ばわりされてはいるが 自分たちでそれを証明するこたぁないだろう なので僕は勝とうと思う、作戦は前に説明した通りだ。 順調に行けば負けるというなら、別に順調に行く必要は無い 何もどうどうと、真昼間から、シラフで性悪女のベッドに飛び込む馬鹿はいないだろう? なので僕は共和軍人としての誇りを最低限保ちつつ、敵の思考の隙をついて なるべくなら、あまりずる賢くは見えないように、上手い事やって勝つつもりだ。 どうだろう、もし今すぐ死にたいか それとも、軍法会議の後で死にたい奴がいたら手を上げてくれ そんな顔をするなよ。 それじゃ、それぞれ部隊に戻って、準備を進めてくれ 上手く行ったらまたパークビューの警備部隊に戻れるよう、上に掛け合おう あんな掃き溜めみたいな場所でも、しばらく離れていれば恋しくなってくる 部下達に伝えてくれ、生きて帰ったらあの不味いエールを奢ってやると そして死んだ奴の話を肴にして朝まで飲み明かすぞってね