昔々あるところにエラという名前の娘がおりました 早くに父親を亡くしたエラには 性悪な義理の母親と二人の姉がいて 家事を全て押し付けられたり、事あるごとにひどく苛められたりしていました エラは若くて美しい娘なのですが いつもボロボロの汚い服を着ていて、顔中埃だらけ とても人前に出れないような格好でくらしていました ある日の事 意地悪な母親と二人の姉がお城で開かれる舞踏会の話題で盛り上がっていました なんと、その舞踏会でもしも王子様の目に留まれば 妃としてお城に迎えられ、何不自由の無い暮らしが出来るというのです エラは部屋の隅で角に貯まった埃を先の尖った物で上手くやりながら 3人の話を聞いていました (ああ、もしも王子様に見初められたなら、こんな惨めな暮らしから開放されるのに! 綺麗な服を着て、髪にお花を挿して、音楽に合わせて両手を叩いて踊るんだわ なんて素敵な想像でしょう。 でもだめね、私なんかきっと相手にされない、こんな汚くて地味な娘、相手にされるわけが無い 角に貯まった埃を掃除するために、わざわざこんな専用の道具を作ってしまうような私なんか…… ああ、きっとお城の部屋は丸いんでしょうね、一体どうやって掃除すればいいんだろう) ですが、そんなエラの望みは、2番目の姉、あのハリガネのような狐顔の姉に 留守番を言いつけられたことで、あっけなく砕かれてしまいました。 薄暗い部屋にひとり残され、フローリングの隙間に詰まったゴミが気になる部屋で エラは孤独と絶望にうちのめされました。 その時です! 不気味な笑い声とともに振り向くと、さっき掃除したばかりのピカピカの部分に 薄汚い老婆が立っているではないですか。 心がザラッとするのを必死で抑えているエラに老婆は言いました 「あたしは西の森から来た魔女だよ、お前のその金色の美しい髪と引き換えに願いをかなえてやろう 舞踏会の城へ行きたいのだろう? 着ていく服が無いのなら美しいドレスをくれてやろう、踊れないお前のために 魔法の靴も用意してあげるよ」 なんという事でしょう、これこそまさに渡りに船というものです 二つ返事で即答したエラに、老婆は激しく頭を動かしながら怪しげな呪文を唱え始めました 老婆の髪の毛は真っ白なので、落ちたら掃除するのが大変だな、いやだなあと思った次の瞬間 エラの着たおしたボロは、美しくもちょっと危険なドレスへと 染みだらけでぺったんこの靴は、ヒールの尖った光り輝くガラスの靴に変わっていたのです その尖り方といえば、フローリングの隙間のゴミがザクザク取れるといった具合で エラはすっかりこの靴が気に入ってしまいました。 ついでに老婆は部屋の隅に転がっていた適当な物を馬車に変えて、準備は万端 後はお城へ向かうだけです。 「時計の針が12時を指したら、お前の髪を頂くよ、せいぜい急ぐといい」 踵を滑らせているエラに、老婆は言って、不気味な笑い声を残して消えてしまいました こうしちゃいられない、と、エラは馬車にとびこんだのでした 次回へつづく!