観測史上5番目に暑い夏   (SE:蝉の声)←以降ずっと   (SE:遠い鈴の音) いつき「あっついねぇ」 よしこ「……」 いつき「吹く風がしめっぽい」 よしこ「……」 いつき「聞いた? 観測史上5番目に暑くなるんだって、なんかもう果てしないよね。 観測し始まってから何年経ってるんだって。もう天文学的な数字だよ」 よしこ「……たかだか80兆年程度よ」 いつき「たかだかって数字じゃないよそれ。80兆分の5なんてほとんど1番と変わらないよ」 よしこ「……観測史上1番の夏と平均気温で0.0103度しか変わらないそうよ」 いつき「そうなの? あぁ、アイス食べたーい」 よしこ「私のも買ってきて」 いつき「まだ買いに行くって言ってないけど」 よしこ「行かないの?」 いつき「え、だってあついし、木陰から出たくないなぁ」 よしこ「じゃあ、私が行く」 いつき「え、じゃあ私も行く」 よしこ「どうせ行くんなら、一人で行ってきてよ」 いつき「……もう。ガリガリくんね」 よしこ「いってらー」   (SE:乾いた砂を蹴って走り去る音) よしこ「……ふぅ」   (SE:ベンチに本を置く音) よしこ「……ほんと、こうあつくちゃあ集中して本も読めやしないわ」   (SE:蝉の声が高まる) よしこ「環境問題が騒がれた時代からもう何十兆年と経っているというのに、どうしてこうも夏はあついのよ……。 今でも本当は少しずつ温暖化は進んでいるのかしら」   (SE:蝉の声、元通り)   (SE:駆けてくる足音) いつき「おまたせっ」 よしこ「おかえり」 いつき「ふぅうう、あつかったっ」 よしこ「私もあつかったわ」 いつき「……あぁー、あつかったなぁ。日差し強かったから、木陰にいると天国みたいだねぇー」 よしこ「それはよかったわね」 いつき「……こんな中アイス買いにコンビニまで行くのは一苦労だったなー」 よしこ「そうね」 いつき「……あー、あつい」 よしこ「……」 いつき「あついあついあついあついあついあついあついあついあついっ!」 よしこ「さて、今いつきは何回あついと言ったでしょう?」 いつき「えっ。何回だろう……? じゃなくてっ。あつかったよ、よしこちゃん」 よしこ「今からあついって言うの禁止」 いつき「あつかった!」 よしこ「……」 いつき「あつかったあつかったあつかったあつ……」 よしこ「ソーダ味食べていいから」 いつき「ほんとにっ? ってソーダ味しかないよ!」 よしこ「……はぁ」 いつき「え、どうしたの? 急にアンニュイなため息吐いて」 よしこ「……」   (SE:袋を破る音) いつき「あ、私も」   (SE:袋を乱暴に破る音) いつき「あぁ、溶けてる! なんかこっちだけ異様に溶けてる! もったいなっ。ずるずる(溶けて袋に溜まった液体をすする音)」 よしこ「しゃくしゃく(アイスを食べる音)」 いつき「ずるずる」 よしこ「しゃくしゃく」 いつき「よしこちゃん」 よしこ「……何?」 いつき「……ううん、なんでもない」 よしこ「……そう」   二人がアイスを食べる音が続く   (SE:飛行機の音) いつき「ああー! 落とした! アイス落としたぁ! うわああ!」 よしこ「……ふ」   (SE:遠い鈴の音)  おわり