圭輔は空手部の2年生である。時期は10月の中ごろ、3年生はすでに引退している。 圭輔(けいすけ)――男性   部  長  ――男性 ※部活動の休憩中。道場の隅で休む圭輔に部長が近づく。 部「圭輔、ちょっといいか」 圭「いいけど、何こそこそしてるんだよ」 部「デリケートな問題なんだよ。……なぁ、お前キスしたことあるか?」 圭「…………」 部「おい、どうなんだよ」 圭「部長、明日って部活休みだろ? 俺んち来いよ。親父に診てもらうから」 部「なんでだよ。俺は病気じゃねぇ! だいたい圭輔ん家は小児科だろ」 圭「知ってるか部長、小児科の医師って子ども全般を受け入れるから、だいたいでき るんだぜ」 部「俺は子どもじゃねぇよ。そんなんじゃなくてさ、……ケンカしたんだよ、彼女と」 圭「あぁ、部長の彼女ってうちのクラスの委員長だっけ? 部長好きそうだもんな、 あぁいう真面目系」 部「なんだよ、真面目な子いいだろ? 文句あんのかよ」 圭「ないよ別に。そんな熱くなるなって。なんでケンカしたんだよ」 部「キス、しようとしたんだ」 圭「それで?」 部「『どうしてキスするの?』って聞かれた。なぁ、圭輔ならなんて答える?」 圭「そんな事態になったことないからな」 部「まじかよ、お前理紗ちゃんとそこまでいってねぇの?」 圭「なっ――あいつは違うって」 部「嘘つくなよ、付き合ってるんだろ? いつも一緒に帰ってるじゃん」 圭「そういうのじゃ、ないって……そんなことより、今は部長の問題だろ」 部「そうだよ! 俺の問題だよ! どう返すのが正解なんだよ?」 圭「さぁ? 『好きだ』って言っとけばいいんじゃないの? てか本人に直接聞けよ」 部「聞けないからお前に相談してるんだよ。どうすりゃいいんだよ」 圭「どんな感じのケンカになったのかしらないけどさ、とりあえずもう一回話してみ れば? 向うが本当に部長のこと嫌いなら、話にすら応じないだろうし、まずはそこ からだろ」 部「圭輔、冷静だなお前」 圭「当たり前だ、他人事なんだから」 部「薄情者! もう本当に困ってるんだって。なんで、俺悪くないよね? だって恋 愛ってそういうもんでしょ? 好きな人と手をつないだりキスしたり、あと――いろ いろするもんだろ?」 圭「そんな風に考えられなかったんだろ、その彼女。真面目に、真剣に部長と付き合 うこと、考えたんじゃないの? そしたら、たまたま『みんなのしている恋愛』じゃ ないところに落ち着いたんだろ」 部「難しいよそんなの、もっと楽でいいじゃん」 圭「俺に言うなって。いいから、部活終わったらその彼女に電話なりメールなりして、 話しろよ。ほら、休憩終わりだ、いくぞ」 部「けぇーすけぇー」