『バイバイ、マイハイスクール』 三月某日。人生で一番甘酸っぱい三年間の、その最後の日がやってきた。 昨日まで長引いていた余寒が嘘の様に、この日の朝は雲一つない晴天で、 頭のてっぺん――、丁度つむじのあるあたりで、照射された太陽光がジリジリと熱を蓄えている。 つい三日前に降雪があったとは思えない、そんな、生暖かい春風が私の全身を包みこんだ。 正午前に式が終わり、級友や恩師との別れが済んでからも、私は一人教室に残った。 目に映る全てが新鮮で懐かしい、何とも表せない不思議な感覚だ。 毎日当たり前に座っていた日差しの眩しい窓際の席も、見馴れたはずの使い込まれた黒板も。 何でもない日常の、何でもない出来事が走馬灯の様に甦る。 この教室は、紛れもなく私が大切な仲間と過ごした私達の教室で、 けれどもここは、新しい誰かの為に用意された誰かの為の教室なのだ。 誰もいない廊下。空になった下駄箱。ガラガラの自転車置場。 この門を出たら、きっと、もう二度とここへ来る事はないだろう。 勉強も部活も恋愛も、然したる物は成し得なかった。 けれど、この門を出て、また少しだけ大人になって。 これから先、私が何かを残すなら、それはここから生まれる何かなのだろう。 だから素直にこう思う。ありがとう。 そして、 バイバイ、マイハイスクール。