いかがわしい本、温めますか? 女「ピッピッっと、355円です」 男「はい」 女「……はぁ」 男「……」 女「ところでお客様はコンビニではいかがわしい本は買わない派ですか」 男「はぁ、買いませんけど。いや、コンビニじゃなくても買いませんけど、それが何か?」 女「いや、コンビニで買って温めてもらえば、頬ずりしたとき温かいですから」 男「だから何?」 女「だから、こう……マジオススメ、みたいな?」 男「客にエロ本勧めるコンビニなんて初めて見ましたよ」 女「……業界初?」 男「そんなんが流行ったらレジが女の子の時気まずいじゃん」 女「私は気にしませんけどねぇ」 男「そっちが気にしなくてもさぁ……」 女「むしろ楽しみですよ」 男「どゆこと?」 女「温めるのが」 男「……そゆこと」 女「ええ、お客様がご購入の際には漏れなく灰にしてお渡ししますよ」 男「はい?」 女「……なんか冷えてきましたねぇ」 男「……ごめん、そういう意図なかったから」 女「寒くないですか? 私が温めて上げましょうか?」 男「いや、怖いからいいです」 女「どうぞ、遠慮なさらずに。責任を持って灰と骨にしてあげますから」 男「もはや電子レンジの性能を凌駕している……!」 女「うち、葬儀屋ですから」 男「そんな取ってつけたような設定を」 女「おや、信じてないんですね?」 男「え、まさか本当なんですか?」 女「いえ、嘘です」 男「そうですか、安心しました!」 女「そんな嬉しそうにして、いったい何を安心したんでしょう……」 男「それにしても嘘つくの得意ですよねぇ」 女「人を嘘つきみたいに言うのはやめてください!」 男「それ息をするように嘘をつく人間が言うセリフですか?」 女「私の父は詐欺師です」 男「マジで」 女「嘘です」 男「うん、知ってた」 女「ええ、私もあなたが知ってたことを知ってました」 男「じゃあ、オレもオレが知ってることをあなたが知ってたことを知ってた」 女「ありがとうございましたー。またご利用くださいませー」 男「流されたっ!?」 女「ちーん」 男「と思ったらなんかできたし」 女「ふふ」 男「いや、ふふ、って温めてもらうものなかったはずですけど? もうお釣りも商品ももらったし」 女「それが実はあったんですよ」 男「……わざとらしい。果てしなくウソ臭い笑顔だ。 でもウソ臭いからこそ、かえってほんとのことを言ってるんじゃないかとも思えなくもないか……?」 女「ほら、手を出してくださいよ」 男「……ならば、こうだ!」 女「あ、私の鍋つかみ」 男「これさえあれば何が来ても怖くないぜっ、さぁ、こいっ!」 女「ほら、鍋つかみはちゃんとつけないと」 男「あ、はい。……しまったっ。言われるがままに指を通そうとするとその中から感じる異様な熱源!  これは罠だ! しかし五本の指は既に半ばまで差し込まれ、さらには店員さんの手がこちらに伸びて……」 女「ほら、ちゃんと装備できましたか? ぎゅっ」 男「あつっ!」