「自慢の手料理」  今日は憧れの先輩がうちに遊びにきます。どうしよう、すごく緊張してきた……。 でも大丈夫、今日のために料理とかいっぱい練習してきたし、材料だって新鮮なものを 用意したんだから、きっと気に入ってくれるよね! (SE:ピンポーン)  あっ、先輩だ!どうぞー、あがってくださーい!  あれっ、先輩どうしたんですか?なんだか少し疲れているみたいですけれど……。 えっ、そうなんですか?飼ってた熱帯魚が、帰ってきたら?そんなことってあるんです ね……。あ、でもでも、きっと私の手料理を食べれば元気でますって!かわいいかわい い後輩の手料理ですよー!今ちょっと準備しちゃいますから!  ふふ、先輩って落ち込んでる表情も素敵だなぁ……おっと、いけないいけない。考え ごとばっかりして、手を抜くわけにはいかないもんね!よっし、腕によりをかけて!!  はい、おまたせしました!先輩の味の好みがわからなかったから、種類たくさん作っ ちゃいましたけど、これぜーんぶ手料理です!  ……どうしたんですか、食べないんですか?  え、これですか?お魚の、お煮付けですよ?新鮮なうちに丸ごと調理しましたから。 おいしいですよ。──多分、ですけど。  ……うふふふ、だって、邪魔じゃないですか。先輩は、私だけ見ていればいいんです から、そんな魚の世話なんて、しなくたっていいんですよ?  私、まだ覚えてます。去年の8月27日、私すっごく頑張って勇気を出して、先輩を飲 みに誘ったの──…やっぱり、覚えてないですよね。そうですよね、私なんかより大事 だったんですもん、熱帯魚の方が。  たかだが魚類の分際で、先輩のお手を煩わせるなんてとんでもないです。だったら…  だったら、食べちゃおうかな、って。  ほら、先輩好きでしょう?熱帯魚。冷めないうちにどうぞ?  あ、煮物苦手でしたか?ごめんなさい、私、気がつかなくて。  だったらこっちの、このフライいかがですか?自慢の手料理ですよ!  ちょっと、形、そのままですけど。  ……ああ、これですか?そうですよ、先輩の周りをいつもうろちょろして、下心みえ みえの。あれも邪魔だったんで。しかもちょっと憎たらしいこと言いやがったんで、思 わず腕ひねりあげちゃいました!ぎゅーって!そしたら、ぎゃー!ってこれがまたうる さくてうるさくて。解体するのも面倒だったので、ひねりあげた勢いでかたっぽだけ千 切って持ってきちゃいました!後のことは知らないけど、まぁ、どうにでもなれ、って 感じですよね!清々しますし!  ──もう、遠慮しないで食べてくださいよ。  自慢の、手料理、ですよ?