町工場(まちこうば) 鈴木:初老の男性 佐藤:初老の女性 名前指定のないところは、鈴木さんの頭の中のセリフです。 ------------------------------------ SE: カターン!カターン!   カコン!カターン! ここは、とある町の修理工場。 ここには、色々な壊れた品物を持って来る人がいる。 直せないものはない。他の人には直せない。 そう自負して…はやウン十年。 いつのまにか、呼ばれたくもないのに「巧」と呼ばれていた。 今日、老女のお客様がおいでになられた。 …これは、その時のお話。 老女「あの…すみません…これを直して欲しいのですが…」 鈴木「あ、はい!喜んで!えっと、お名前は?」 老女「さとう、と言います。」 老女から渡されたのは、かなり使い込まれた品物だった。 見るからにかなり上等なモノと思われる。 …ただ、今にも崩れてしまいそうな、そんな感じの品物であった。 鈴木「これは大変だ!すぐに直しに掛かります!」 SE: カターン!カターン! SE: カコン!カターン! SE: タンタンタン… SE: カターン! 鈴木「これは…かなり使われた…よく今まで大丈夫でしたねぇ…」 佐藤「え!…はぁ…実は1年前から急にボロボロになったのですが、毎日毎日、騙し騙しずっと使ってきていまして…」 鈴木「あ、それで…表装も酷いですが、動きが渋い所もありますね…これも直しておきますね!」 佐藤「ありがとうございます!」 SE: カターン!カターン! SE: カコン!カターン! SE: タンタンタン… 鈴木「そういえば…こう言っては失礼ですが。これ、見た目はかなり上等なモノと思われますが?」 佐藤「ええ。うちの父は出生が財閥で。嫁に行く私に、『着飾るのに丁度良い』と、コレを与えてくれまして。」 鈴木「それがなぜ、こんなボロボロに?」 佐藤「主人が昨年に…以後、父も、母も、娘も…転げ落ちるように…気づいたらこんなになっていて…もう直せませんかね…私の…」 鈴木「…失礼しました。当然、最善を尽くします!」 SE: カターン!カターン! SE: カコン!カターン! SE: タンタンタン… 鈴木「終わりましたよ!これで元通りになったかと。」 佐藤「ああっ…!この色!この輝き!!まさに父から授かったまま、そのままです!!ありがとうございます!」 佐藤「あ、あの…お恥ずかしい話ですが、私は一銭も持っていなくて…」 鈴木「私の工場(こうば)では、お代は一切いただきません。…そのことをご承知でこちらに来ていただいているのですよね?」 佐藤「ありがとうございますっ!…ありがとうございますっ!」 佐藤は帰っていった。 元に戻ったそのモノと、顔色を携えて。」 鈴木「良かった…これであの人はもう、間違いを犯さないだろう…」 SE: カターン!カターン! SE: カコン!カターン! ここは、とある町の修理工場。 ここには、他の工場では絶対に直せない品物を持って来る人がいる。 それは、人のココロ。 これを直せるのは、やはりボクしかいない。 そう思っている。