温めますか? 女「こちらのおにぎり温めますか?」 男「あ、はい、お願いします」 女「かしこまりましたー。しょーしょーおまちくださーい」 男「……」 女「……」 男「……」 女「あのー」 男「ん?」 女「ついでなんでそちらの缶もあたためますかー?」 男「え、これビールですよ?」 女「温めない、と」 男「……はい」 女「ですよねー」 男「……ええ」 女「……」 男「……」 女「あのー」 男「はい?」 女「それじゃあそのニット帽を温めるというのはいかがでしょうかー?」 男「は?」 女「ほら、もう日も暮れてきたし、道中寒いですよ、きっと」 男「いや、でも、ニット帽は……」 女「温めない?」 男「温めません」 女「ファイナルアンサー?」 男「ファイナルアンサー」 女「……」 男「……」 女「……っ!(深く息を吸って何か言い出しそうな気配)」 男「……!」 女「ちーん!」 男「……?」 女「どうぞ、おにぎりです」 男「……あぁ、本来の目的を忘れかけてた」 女「ふふっ、私ったら罪な女ですね」 男「えっ?」 女「はい?」 男「……いや、なんでもないです」 女「なんでもない?」 男「ええ、なんでもない」 女「ちーん」 男「今度はなんです」 女「お釣りの65円、ばっちり温めておきました」 男「その必要はなかったけど、さしたる害もないものとして黙して受け取ることにしましょう。って、あつっ!」 女「あ、大変お熱くなっておりますのでやけどにはご注意ください」 男「遅いよ。てかなんで君はこんなもん平気で持てるの?」 女「にやり」 男「鍋つかみ完備! さすがコンビニ」 女「ほらほら、小銭拾わないと」 男「そうでした」 女「……」 男「……なんです」 女「いえ、続けてください」 男「手伝おうという気は?」 女「ないですね」 男「念のために伺いますが、その理由は?」 女「だって、こうやって私の足元に這いつくばっている男を見降ろすのは気分がいいですから」 男「……もういいです、帰ります」 女「あ、ちょっと待って」 男「え? あ……、ど、どうしたんですか。いきなり手なんか握って……」 女「あなたに渡したいものがあって」 男「え? いやぁ、そんないきなり……。まいったなぁー。なんて」 女「はい、手を広げて」 男「……はい」 女「そのまま目を閉じて……」 男「……はい。……ってこっそり鍋つかみ装着すんなよ! 離せ! 握力強っ! そしておもむろにしゃがみこんだ先には件のあつあつ小銭たちが……」 女「はい、どーぞっ」 男「あつっ!」