日高亮 でかい 俺様キャラ 小林純 ちいさい  芸術家気質、ちょっと神経質? 石田 委員長 噛ませ 小林01「繰り返す毎日というものは、退屈に思えて、実は貴重なものだ。     だって、同じことを繰り返せるだけの余裕があるんだから」 小林02「変化なんて、実は誰も求めてないんだ。     ずっとずっと、同じ今が続けばいいと思ってる」 小林03「思考停止と、君は罵るかもしれないね。こういう考え方は、君は好きじゃなかったから。     それでも僕は、この刹那を永遠にしたかったんだよ」 小林04「それでも太陽は昇るって、知っていたのにね」 通学路をコートを着た生徒達が疎らに歩いている。 小林05「うぅ……寒い」 小林06「はぁー」 小林は、時折手を温めながら学校へと進んでいく。 その途中で、駆け足が後ろから聞こえてくる 日高01「うぉーい!」 ぐるりと目を向ければ、級友の日高が歩いてくるところだった 小林07「あ、おはよー」 日高02「はよっす、ったく、お前はいつも俺を置いて先行っちゃうんだから。にしても今日もちっこいな」 小林08「ちっこい言うな」 日高03「そもそも苗字からして小さいよな、小林だぜw」 小林09「全国の小林さんに謝れよ! というか、まず僕に謝れよ! つーか、小さくねーよ!」 日高04「おお、おお、小さい狗はよう吠える」 小林10「人間じゃ無くなってるじゃないか! だから謝れよ! hold up!」 日高05「手上げてどうするんだ。謝れだと……Apologizeじゃねーの」 小林11「きー!」 日高06「いよいよ猿に退化して参りました。何が気に入らないんだよ」 小林12「君が小さいって言ったからだよ全部そこからだよというか他に何も問題起きてないよ!」(区切らずに一気に) 日高07「一息で言い切りおったな。よう肺活量がもつもんだ」 小林13「文化系舐めんなよ!」 日高08「ちっちゃい子ががんばってるのって感動するよなぁ」 小林14「だからちっちゃいってゆーな!」 日高09「俺は誰が、とは言ってないぞ。ただ、小さい子ががんばってると感動するよなっていう一般論だ」 小林15「ぐぬぬ……この、亮の糞ノッポー!」(FO) 小林は言い捨てて走り去る 日高10「……行っちまった。ったく、置いてくんじゃねぇよ!」 日高、後を追って走る 朝の教室は少しざわついている 雪が降るとか、降らないとか天気予報の話題や芸能ニュースの話題が飛び交っている 小林16「つーん!」 日高11「そうむすっとするなよ。いつものことじゃねぇか」 小林17「いつものことだから怒ってるの!」 日高12「好い加減慣れろ」 小林18「好い加減やめて」 日高13「おお、小林純。その姓の通り、心まで狭いと見える! 小さき者は、外ならず内までも小さいのか」(舞台役者のように大仰に) 小林19「全国の小さい人に謝れよ! 度量の広い人は幾らでもいるよ!」 日高14「お前は狭量だろ?」 小林20「そもそも、亮が僕を弄ってるのが原因だよねぇ?」 日高15「(口笛)」 小林21「口笛吹いて誤魔化そうったってそうは問屋が卸さねぇ、今日こそはやめてもらうからね!」 日高16「ほほう、いと小さき純くんに、この日高亮様をどうにか出来るとでも?」 小林22「ああ、出来るとも、千里の道も一歩から、塵も積もれば山となる! 小人だって、諦めなければ巨人を打ち倒すことができるはずだ」 日高17「大山鳴動して鼠一匹……あ、いや、小山かな? というか、小人って認めるんだな」 小林23「――!」 日高18「ま、俺をどうにかしたいなら、その瞬間湯沸かし器っぷりをやめるんだな。土俵に立つなら回しを締めろよ純」 小林24「僕はそれ以前の問題だと?」 日高19「締まってすらいないねぇ」 小林25「ぐぅ……」 石田01「あはは。二人とも飽きないわねぇ、毎日毎日」(笑いは結構長めに) 日高20「最早挨拶のようなものだからな」 小林26「出来れば速攻で変更して貰いたい挨拶だね!」 石田02「ほんと、よくもまぁ。夫婦(めおと)漫才ってこういうことを言うのかしら」 日高21「夫婦……だと。俺とこいつが?」 小林27「夫婦……だと。僕とこいつが?」 同時に言う二人 石田03「ほら、息ピッタリじゃない。ふふ、ごちそうさま」 日高22「いや、断固として拒否するぞ。俺の嫁は170を超えていると昔から決めているんだ」 小林28「160にも満たなくて悪うございましたねぇ……僕だってごめんだよ。だれがこんなノッポと」 石田03「そうぉ? お似合いだと思うけどなぁ」 日高23「というかだな、委員長? そもそも俺たちは性別が同じなわけでだなぁ……」 石田04「愛は性別を超越するらしいわよ?」 小林29「そこまでの愛はない! 想像するのも気持ち悪い!」 日高24「想像するぐらいの余裕は持てよ。まぁ俺もごめんだけどな」 石田05「ふふふ、冗談よ。ノーマルが一番。じゃないと困っちゃう」(じゃないと、からは小声で) 日高25「ん、委員長何か言ったか」 石田06「いいえ、なんにも。さ、そろそろ予鈴が鳴るわよ。日高くんは自分の席に戻る戻る」 日高26「お、おう。なんかはぐらかされた気がしなくもないが……」 小林30「じゃあねぇ〜糞ノッポー」 日高27「次の休み時間覚えてろよ」 小林31「受けて立つよ」 小林32「おちょくられて、怒って、近くにいる誰かに笑われて。     端から見れば学習しないなって言われるかもしれない     でもそれでも、ただ、あいつの傍にいられる。僕はそれでよかった」 小林33「自己満足? そう言われればそうなのかもしれない。     でも、人間万事そうだろう? それに他人の評価がくっつくかどうかってだけで」 小林34「君と好きな人が百年続きますように……そう、僕は、それでよかったんだ」 小林35「そのはず、だったのにね」 石田07「今は、強く、抱きしめていて」 日高28「……ああ。いいよ」 小林36「見て、しまった。見てしまった。     校舎裏のゴミ捨て場に、ゴミを捨てに行く途中で、茜色に彩られた舞台に乗った二人を見てしまった」 小林37「それはまるで、ドラマのワンシーンのようで。文句の付けようがないぐらいに嵌っていた。     きっとそれは、亮も望むだろう理想型で。もう一筆だって加筆する余地はない」 小林38「なのに、どうしてだろう。そこに僕がいないことが、とてつもなく嫌だったんだ」 小林が手にしていたゴミ袋が落ちて音を立てる。 小林39「あ」 小林、急いでゴミ袋を拾って、その場から逃げる 日高29「おい、今誰かが」 石田08「……今だけは、私を見ててよ」 小林40「逃げた、逃げた。自分の汚い欲が見えて。それがとてつもなく嫌で、気持ちが悪くて、僕は逃げた」 小林41「逃げ場所は、すぐ近くにあった。人間一つの物事に集中すれば他は見えなくなってしまうものだ。     ――僕は幻想世界を逃げ場所にした」 小林42「それは最低の人間がすることだとわかっていたけど。     僕は現実から目を逸らしたくて、ただ、自分だけの世界に引きこもった」 日高29「よう、今日も小さいな」 小林43「……はよう」(消えそうな感じでおはよう) 日高30「……? どうした、お前風邪でも引いたか」 小林44「気のせいでしょ」(こちらも消えそうな感じで) 日高31「いや、気のせいじゃないだろ。だっていつもならすぐに」 日高の言葉を遮って小林は言う 小林45「コンペ近いんだ。じゃま、しないでくれるかな」 日高32「友達と口聞かないのが秘策ってか? 面白くない冗談はやめてくれよ。     前はそんなんじゃなかったろ。会話の中でネタを探すーとか言って、積極的に話掛けてきたじゃねぇか」 小林は無言で日高を睨み返す 日高33「……あ、そう。そうかい。わぁーったよ。コンペ終わるまでは静かにしてます」 日高34「ったく、やれやれ」 口を零しつつ日高が先行していく 少しずつ遠ざかっていく背中を見ながら小林は呟く 小林46「……ごめん」 小林47「実際、コンペに向けて集中したいのは本当のことだった。     日本中から作品が集まる大舞台だ。そこに少しでも食い込んでいけるように、推敲に推敲を重ねて、イメージを形作っていく。     その作業自体はとても楽しくて、だからこそ、没頭できた」 小林48「けれど、その代償に、僕は使える時間の全てを費やした。     自分に才能がないのだというのはとっくの昔に知っていたから。     それでも、1%のひらめきですべてをひっくり返されてしまうのだとしても、せめて近づきたいと願っていたから」 小林49「書いては消し、書いては消し。彫刻を刻むように、イメージを書き重ねていく」 ペンが紙上を走る音。紙が捲られる音。紙がくしゃくしゃにされる音 小林50「まるで僕自身を養分にしているように、作品は今まで見たことがないぐらいに羽ばたいていた。     美しく見えた。これならいけるかも知れない。そんな錯覚が産まれていた」 小林51「でも、所詮は錯覚でしかなくて。     断崖から一歩踏み出せば、そこは奈落」 小林52「……あ」 小林椅子から落ちて倒れる 小林53「自分が倒れたのだと知ったのは、真っ白な天井を見た時だった。     掌の中に掴んでいたはずの幻想は、もう何処かへ飛んでいってしまっていた」 小林54「もう、ただの一文字だって、文章は浮かんでこなかった。     最高になるはずだった一作は、未完になってしまった」 小林55「病院はすぐに退院できた。けど、念のためしばらく学校を休むことになった。     その間、僕は一歩も外に出ようとしなかった。この狭い世界なら、安心だったから」 自室の窓を雨が窓を打ち付けている 小林56「雨が、雨が降っている。今まで隠していた僕の心が露呈したように」 小林57「やめて、やめてよ」 小林58「気が付けば、天に向かってそう呟いていた。泣かないで、笑っていて。     じゃないと、僕まで泣いてしまう。涙が、つられて溢れてくるじゃないか」 小林59「胸の傷を抉るように、僕の見舞いには、二人が一緒に来た」 日高35「よっす、久しぶり、か? いや、毎日学校で顔合わせてたんだから久しぶりってのもヘンだけど。     こうして話すのも、なんか久しぶりって感じするよなぁ」 石田09「倒れたって聞いたとき、みんなびっくりしたんだから。コンペに向かって突き進むのはいいけど、倒れたら元も子もないよ。     ついつい夢中になっちゃう気持ちはわかるけどね」 小林60「別に、他意なんてなかったのだろう。     二人が一緒に来たのは、友人代表とクラス代表が、たまたま一緒に来たと言うだけ。     別に見せつけに来たわけじゃない」 小林61「理性でわかっていても、感情が納得しなかった。     雨が降って緩んだ心では、激情を受け止めることは出来なかった」 小林62「帰って」 日高36「ん?」 石田10「え?」 小林63「帰って!」 日高37「ちょ、それどういう」 小林64「いいから帰れ! 二度と来るな! お前たちの顔なんか見たくない!」 日高38「おい、純――」 小林65「私たちは幸せですって見せびらかして楽しいか。え? 楽しいんだろうな、じゃなきゃわざわざ二人で来るはずないもんね。     ああ、そうだよ、僕にはもう何もないよ。空っぽなんだよ、真似事すら出来ないんだから。はは、嗤えよ。ほら嗤えよ。あはは、はははは」 譫言を言うように叫ぶ小林に石田は日高の手を取って部屋を出ようとする 石田11「日高くん、行きましょう。ここは……」 日高39「でも……」 石田12「私たちがいても逆効果だから……」 日高40「お、おう……」 がちゃんとドアが閉まる 小林66「……もう、やだ」 どすん、と音を立ててベッドに転がる 小林67「どうしてこんなことになったのか、わからなかった」 小林68「過去を変えられるのなら、あの日にまで遡って校舎裏に向かう時間をずらしたい     何も知らなかった自分に戻りたい」 小林69「誰か、助けて……」 小林70「救い主は現れない」