介護「高橋さん、結婚しましょうか、ね」 高橋「あー」 介護「結婚して、今までどおり、週に2回私、来ますから、ね」 高橋「あー」 介護「ん? 2回ですよ、2回、指一本多いですよ、3回じゃなくて2回」 高橋「あー…」 介護「増やしたいんでしたらね、ケアマネさんと一度相談してね」 高橋「あー」 介護「うん、高橋さんそれね、猿マネね、猿じゃなくて、ケア、ね、ケアマネさん」 高橋「あー…?」 介護「そうそうあの腐れ眼鏡ババァね、そうそう、眼鏡の、ね」 高橋「あー……」 介護「ね、結婚して、私配偶者になりますから」 高橋「あー」 介護「うん、高橋さんそれね、殺人現場に落ちてる方の血痕ね、そんな物騒なあれじゃないから、配偶者になるから、ね」 高橋「あー」 介護「うん、高橋さん、これね、お名前書いておきましたから、ね、はんこ!はんこおしてくださいね、婚姻届に、はんこ」 高橋「あー……あーー……」 介護「高橋さん、それ、ちょっとね、言えない方のね、『ま』で始まる方だから、ね。 『ま』じゃなくて『は』、『は』んこ押しましょうか、ね、はんこ」 高橋「あー……」 介護「はい、ここですよ、ここ」 高橋「あー…」 介護「うん、じゃあね、次ね、高橋さん、生命保険! 生命保険入りましょう」 高橋「あー」 介護「うん、高橋さんそれね、安倍晴明のね、うん、セーマン印!陰陽師じゃなくてね、生命保険、ね、死亡時給付金がね、2億円配偶者に入るやつでね、掛け捨てのやつ」 高橋「あー…あー…」 介護「うん、高橋さんそれね、旅の恥ね、うん、それは掛け捨てじゃなくて、掻き捨て!ね、高橋さんそれね、掻き捨て!」 高橋「ところで、こんな高度なボケかます老人をだませると思いましたかね」 介護「いや、正直途中から『あ、こいつわかっててやってるな』って思ってました」 高橋「ですよね、安心しました」 介護「私は不安ですけどね!!」 高橋「私のボケにいやな顔一つせず、丁寧に接してくれたのはあなただけです。 仕事とはいえ、なかなかできることではありません。 大丈夫ですよ、誰にも言いません」 介護「いやでも、バレたらって思うと」 高橋「そのときは私を殺せばいい。 婚姻届はそのまま提出して、保険金も受け取れるようにしましょう。 残りわずかの人生、あなたの様な人にお世話をしてもらえるのなら本望です」 介護「高橋さん……」 高橋「都合が悪くなったら、またボケたフリをさせてもらいますよ」 介護「……そう、ですか」 高橋「ところで……」 介護「はい……なんですか、高橋さん」 高橋「ご飯はまだかねぇ……」 介護「うん、高橋さんご飯ね、さっき食べましたね、うん」