Sa:サンタクロース 年長 Sb:サンタクロース 年若 Da:魔法遣い 大魔導師アキラ Db:魔法遣い 大賢者ユウト Oa:ユウトの幼なじみ。 Ob:アキラの近所のお姉さん。薄幸 N:ナレーター c:子供 N「十二月某日都市摩天楼上空。そこでは激戦が繰り広げられていた」 魔法の炸裂する音 Sa「GO,GO,GO,GO! トナカイたちよ、恐れるな! 正義は我らにある!」 Sb「なんとしてでも、この玩具を、子供達に届けるんだ!」 N「天かけるトナカイに引かれ、天上を舞うのは真っ赤な装束に身を包んだサンタクロースたちだ。  彼らは皆誇りを持って今日という日を心待ちにしていたのである」 Da「クリスマスは中止だ。と、通達が行っているはずだがなぁ」 Db「ククク……リア充は死ななければならない……」 N「相対峙するのは、童貞を拗らせた魔法遣いたちだ。  御歳三十を超えて尚独身にして童貞。  彼女いない歴=年齢という、幾つもの負のオーラを身に纏った彼らは暗黒魔法を解き放つ」 魔法の炸裂する音 Sa「く、魔法遣いどもめ……自分たちの所に幸せがないからと、他の所からも奪おうと言うのか!」 Sb「二次元の彼女たちと戯れていればいいものを……!」 Da「教皇からも通達が行っているはずだろう? クリスマスは粛々と行われるべきだと」 Db「それはそれ、これはこれだ。死ねぇ!」 魔法の炸裂する音 Sa「聖ニコラウスの始めた伝統を、我らの代で絶やすことなど誰が出来ようか!」 Sb「俺が囮になる! その隙にヤツらに幸せをお裾分けしてやれ!」 Sa「おうともよ!」 N「往く往く、トナカイたちが天を往く。  真赤なサンタクロースは、袋を開き、幸せの欠片を取り出した」 Da「囮など……クク、二者とも打ち落とせば変わらぬこと!」 Sb「させると思うてか! 聖者の加護を舐めるなよ!」 N「囮となったサンタクロースは激しく魔法遣いと打ち合う。  炸裂する暗黒魔法の怒濤を、聖ニコラウスの加護を受けたコインが迎撃する」 凄まじい爆発の音 N「一方、幸せの欠片を取り出したサンタクロースは、真っ暗な瞳をした魔法遣いと相対峙していた」 Db「俺に幸せのお裾分けだと……クク、三十年苦渋を舐め続けた男に、ちっぽけな幸せなど何の価値があろうか」 Sa「人の愛は全てを溶かす情熱の太陽。お前にも伴侶がいたはずだ」 Db「フラグなど、ない。現実にはな。すべて……そう、すべて……すべて、神が事前にへし折ったのではないか!」 N「激怒と共に魔法が炸裂する。暗黒の波動を受けながら、サンタクロースは夜天を突き進む」 Sa「思い出せ、お前の傍らにあった少女の存在を。彼女はお前に呼びかけようとしているのだから!」 星の流れる音 Db「ぐ……うう……あ、頭が、痛い……俺は何を思い出そうとしているのだ」 Sa「二次元の彼方ではなく、三次元より来たる者の名を、ここに! その名は――幼なじみ!」 携帯の着信音 Db「聖戦の最中に……一体……も、もしもし」 Oa「もしもし、ユウくん? わたし、シズクだよ。久しぶり〜元気してるぅ?」 Db「え……あ……うん……」 Oa「その、さ……今日、暇?」 Db「え? あ、う、うん……」 Oa「よかったぁ。それならさ、これから待ち合わせしない? 今どこ?」 Db「え……あ、何処でも大丈夫。すぐいけると思う」 Oa「それじゃ、渋谷に良い店知ってるんだ。ハチ公前で会おうね!」 電話の切れる音 Sa「さぁ、駆け抜けよ少年の心を思いだして!」 Db「う、う、うおおおおおおおお!」 N「極大の彗星と化した魔法遣いは渋谷駅に向かって、天を駈け抜ける」 c「あ……流れ星ー」 Sa「切っ掛けは充分。選択肢を間違えるんじゃないぞ」 Da「馬鹿な……大賢者ユウトが裏切るだと……奴の恨みは、魔法遣いとして上位に位置するほどのものだというのに!」 Sb「甘かったな、大魔導師。いつだって、誰だって、人はリア充になれる」 Da「この……この屑どもがぁ! 幸せの押し売りだと。俺は、俺は認めぬ、断じて断じてだ!」 魔法の炸裂する音 Da「そもそも、幸せを届けるのならば、何故若き俺の元に貴様らは来なかったのだ!」 Sb「お前の元にだって誰かが来たはずだ」 Sa「我々は世界全ての子供に微笑む」 Da「願いが足りなかったと? 間違っていたと、そう言うのか!」 Da「何故だ、俺は切に願っていたはずだ! 彼女が欲しいと、童貞を捨てたいと! リア充になりたいと!」 Sb「ああ、そうだよ。だって、お前――」 Sa「操を立てているだけだろうに」 亀裂の入る音 Da「あ、ああ……? なん……だと……」 Sa「哀しかったろう。悔しかったろう。目の前で想い人が逝ってしまったのは」 Sb「あれはクリスマスではなかったから……俺たちの助けは間に合わなかった」 Sa「だが、今はクリスマス!」 Sb「俺たちに出来ないことはない!」 Sab「聖夜の奇跡よ! 嘆く大魔導師に、再会の喜びを」 N「純白の光輝が大魔導師を包み込む。そして、彼は再会を得た」 Ob「アキちゃん」 Da「マヤ……マヤねえだというのか!」 Ob「久しぶりだね。ふふ、髪が跳ねてるの変わってないよ」 Da「そういうそっちは……変わらないな」 Ob「死人ですもの。ねぇ、後悔、してる?」 Da「俺は……だって、俺だけが救えたのに!」 Ob「そうだよね。うん、ごめん……背負わせちゃって」 Da「いいんだ、いいんだよ。俺は、マヤねえだけが好きだったから!」 Ob「でも、もっと現実にも目を向けなきゃ。我慢しなくてもいいんだよ、大丈夫、怖くないよ……」 Da「どうしてマヤねえもそんなことをいうんだ」 Ob「死に囚われてるなんて、哀しすぎる。ううん、想っていてくれるのは嬉しいよ。   でもね、それに囚われちゃだめ。見えるものも、見えなくなっちゃうよ」 Da「マヤ……ねぇ……」 Ob「ほら、思いだして。あなたのことを、ずっと想っていてくれた人がいること。   本当はわかってるんでしょう。だから、ね……」 Da「でも、そうしたらマヤねえはどうなるんだ。忘れられたら消えてしまう!」 Ob「ううん、そんなことない。ちゃんと刻まれてるよ。私は」 トン、とアキラの胸を叩く Ob「ここに。私はいるから。怖くなったら思いだして。   大丈夫。アキちゃんなら出来るよ」 Da「俺は、俺は……」 Ob「怖くない、怖くない……ね」 Da「……ふふ。子供の頃にかえったみたいだ」 Ob「あはは……甘えん坊さん」 N「そうして大魔導師は幸せな夢を見る。暗黒の粒子を、徐々に徐々に浄化されながら」 Sa「ふぅ……とりあえず、これで大丈夫だろ」 Sb「それじゃ、本業。行きますか!」 Sa「ああ、そうだな。夜は長いがあっという間だ」 Sb「待ってろ子供たち。いま、プレゼントを届けるからなぁ!」 N「二つの橇が天を往く。今年も子供たちにプレゼントを与えるために」