『闇の使者』 人間の文化もそれほど悪くない。特に、洒落た喫茶店で一服している時はそう思う。ちょうど今のように。 街の通りに面した大きな窓からは、控え目な日差しが差し込んでいる。 秋の澄んだ空気は、太陽の邪魔をするつもりはないらしい。 こんな日は、少しばかり人間がうらやましく思える。…我が故郷ではまず味わえない気分だ。 午前10時。仕事を始めるにはいい時間になった。 もっとも、私が一番仕事をしやすいのは日が暮れてから――――夜の帳(とばり)が降り、 街に巣食う堕落があちこちで顔をのぞかせてからだ。 闇が自分の罪を、恥を、醜さを覆い隠してくれると、人はそう思っている。 そして自らも知らぬまま、その魂を欲望に委ねる。 どれ、君の欲しいものを訊いてみよう――――欲しいのは何かな?女か。金か。それとも暴力か、あるいは白い粉か? 望むものが何であれ、私はそれを手に入れる手助けをしよう。 君は自分を解き放つだけでいい。そうすればもう、私たちは永遠の友人だ。