『The One』 A:男性。ある種の厨二病患者。もう少し頑張れば地に足が届きそうなところが救いか。 B:男性。ヒサシゲ。厨二病と高二病の間を行ったり来たり。 C:神様。電波。長文。演説者。そしてオッサン。 A01『僕にはささやかな夢がある。いつか、きっといつか、オンリーワンの男になろう。他の誰   にも真似の出来ない、たった一人の僕になろう。……今はまだ、僕はただの中学生で、まだ   何の力も持ってなくて、情けない、どこにでもいる僕だけれど』 B01「お、またいつもの妄想やってるな。目を見ればわかる。どこか遠くをまっすぐ見つめてい   る目だ」 A02「ヒサシゲ。だけど僕はいつかやるよ。妄想だけじゃ終わらせない。いつか僕は、きっとオ   ンリーワンの僕に」 C01「不可能」 A03「……え?」 C02「無理、無茶、不可能。不能、お手上げ、不可避、処置なし。君の夢は叶わない。君は何者   にもなれやしない」 B02「何だよオッサン。勝手にひとの会話に割って入りやがって」 C03「我は神。全知全能、絶対無比の存在にして、幾百の過去を紡ぎ、幾千の未来を知り、幾万   の運命を司る者。歴史がとうとうと流れる大河だとすれば、我はその川の水のひとしずくま   で飲み下そう。未来が無数にきらめく星の海だとすれば、我は夜空のことごとくを覆い尽く   そう。全てを知り、全てを解し、全てを定めることこそ我が職分なれば」 B03「何だこいつ。電波?」 A04「ちょっとヒサシゲ、本人目の前にそれはさすがに」 B04「お前ムカつかねーの?どこの誰とも知れないオッサンに、いきなり自分の夢を否定され   ちゃったんだぜ」 A05「うん……」 C04「改めて告げよう。少年よ、君は何者にもなれない。君自身で在り続けることさえ出来やし   ない。それが君に定められた運命だ」 B05「運命?はっ、馬鹿馬鹿しい。オカルトかぶれは独りで妄想膨らませて独りで破滅してろ。   行こうぜ」 A06「あ、うん」 C05「どこかの誰か。ありふれた同胞の群れ。規格化された社会の部品としての生。名無し。顔   無し。哀れなり人の子よ。哀れなり人の子よ。運命。運命。それが運命。運命。運命。運命。   運命。運命。運命。運命。運命。運命。運命」 A07「……何が運命だよ」 A08『ようやく言えた僕のささやかな反抗は、神を名乗る男に背を向けて、ささやくようなちっ   ぽけな声で、自分の心臓の音にさえかき消されてしまいそうな、情けない、ありふれた言葉   だった。ああ、僕にはまだまだ力が足りない』