『暁の約束』 私は、神様に頼るしかなかった。 暁の空を見上げ、私は祈る。 「どうかあの方を、お守り下さい」 それは夏のはじめのこと――――――― それなのに、頬をなでた風はいやに冷たかった。 どうして男の人は、戦なんてするのだろう。 幾千も繰り返したため息を、またこぼしてみる。 今始まろうとしている戦も、このため息のように風にとけて無くなってしまえばいいのに。 分かってはいる。あの人はこの国の兵士。この国を守るために、剣を取る。 あの左眼をふさぐ傷跡は恐ろしいけど、それすら愛しい。 私はあの人のなんでもない。ただ、焦がれているだけ。 だから、あの人がどれほど強くても、勇ましくても、誇りに思うことさえできない。 ただ、祈ることだけしか。 祈りを終えて振り向くと、若い兵士が遠くからこちらを見つめていた。 こちらも見つめ返した。 彼は、君に会うために帰ってくる、と言った。 不意に紅くなりかけた頬を、また冷たい風がなでた。 ああ、この風が、戦いの熱を冷ましてくれればいいのに。