古代の民のキャラバン─2の月─ トワ(35):キャラバンを率いる若きリーダー。大陸を蝕む風化の悪魔を、真実の風で浄化するための旅を続けている。 イルマ(38):トワの妹。トワ以外に肉親はおらず、若干ブラコン気味。ご神託を受ける巫女として、兄とは違う形でキャラバンを導いている。 ババ(10):最高齢のババ様。先代の巫女。今はキャラバンのご意見番のような知恵袋のような。 マール(1):ちょい役。キャラバンのまとめ役。テント張るおっさん。 サマラ(1):ちょい役。子供たちに火をおこす指示を出すだけの簡単なお仕事。 カルン(5):やんちゃぼうず。 ミーラム(5):控えめおっとり女児。 パル(5):明るく元気な男児。カルンの弟。 ネラの民(4):風化の悪魔が迫ってきたことを知らせるだけの簡単なお仕事。 (モノローグ)イルマ01「私達の旅は続く。地の果てまでも、幾世代を超えて」 トワ01「よし、今夜はここに天幕を張ろう。マール、男達をまとめて天幕の用意を」 マール01「へぇ、わかりましただ。──おぅーーーーい、天幕を張るぞーーぉぇい!」 トワ02「サマラさん達は火おこしと、食事の準備を」 サマラ01「あいよ坊ちゃん。カルン、ミーラムとそれからー、あぁ、パル!火をおこしとくれ!」 カルン01「はぁーい!」 (モノローグ)イルマ02「私達は、旅をする。北へ、南へ。大陸に、真実の風を吹かせるその日まで」 トワ03「イルマ……疲れたかい?」 イルマ03「お兄様……いえ、大丈夫、です」 トワ04「そうか。今日は随分と移動した。この調子で進むことができれば、10日もかからずにハルラ領に入れるだろう」 イルマ04「そうですね。途中のオアシスで少し休むこともできましたから、皆元気です」 トワ05「そうだな。ほとんど死にかけた不毛な大地でも、水は静かに呼吸をしていた」 イルマ05「お兄様、これからどちらかへ?」 トワ06「ああ、危険はないか、付近を見回ってこようと思ってね。民を護る事が、風を護る事につながるのだから」 イルマ06「その剣も、随分と長く使っておいでですね」 トワ07「うん、イルマのまじないがよく効くから、(SE:剣の音)もしかしたら私よりも長生きするかもしれないな、あはは」 イルマ07「もう、お兄様!」 トワ08「わ、痛い痛い!つねらないでくれ、イルマ!」 イルマ08「そんな事言うお兄様なんて知りません!」 トワ09「悪かったイルマ!見回りに行く前に、まじないをかけてほしいんだ。皆を護れるように、民を導けるように」 イルマ09「仕方ないお兄様。…光の音と風の色…想いと共にあれ」(SE:魔法かかる音) トワ10「…うん、ありがとう、イルマ。では、いってくるよ」 イルマ10「はい。気をつけてくださいね、お兄様」 (モノローグ)イルマ11「大陸を、風化の悪魔が飲み込み始めた頃。私達はまだ、エストラの国で幸せに暮らしていた」 (場面転換、回想) ババ様01「…じゃからして、ご神託というものは求めるものでなく、いただくものなのじゃよ」 トワ11「ババ様ー!」 ババ様02「なんじゃ、騒々しい。トワかい?」 トワ12「ババ様、ネラの!ネラの民が!!」 イルマ12「えっ」 ババ様03「なんと」 ネラの民01「うぅ…エストラ、の…」 イルマ13「ひどい……ババ様、まじないを!」 ババ様04「無駄じゃよ……この渇きは、まじないでどうにかなるものではない……」 イルマ14「でも!」 ネラの民02「ネラは…うっ!!」 トワ13「しゃべってはいけない!今、水を」(走り去る) ババ様05「無駄じゃと言うておる!……風化の悪魔じゃな」 ネラの民03「は……ぃ……すぐ……っ!そこ、まで……エストラ、の……逃げ……」 イルマ15「数多の命のかけらよ、水よ!!…お願い…っ…!」 ババ様06「お主、名は……」 ネラの民04「カザ……ナ……ゥ……」(力尽きる) イルマ16「そんな……あ…ぁぁ……」 トワ14「水を持ってきた、さあ!」(駆け寄ってくる) ババ様07「…命を賭して、我らを救って下さったか…」 トワ15「……っ」(ひざをついて崩れる) ババ様08「せめて名だけでも、と思ったのじゃが……」 イルマ17「うっ……っ」(声を押し殺して泣く) トワ16「風化の、悪魔が…隣国の、ネラにまで…」 ババ様09「トワよ、それからイルマ。わかっておるの?」 トワ17「……はい……イルマ、マール達を集めてくれるかい。私達は、国を捨てなければならない」 イルマ18「お兄様……っ!」 トワ18「イルマ……。私は、死なない。ずっとお前のそばにいるよ。…さあ、時間がない。大広間に皆を」 イルマ19「は……ぃ……」(ぐすぐすしながら) ババ様10「運命の輪は、廻り始めてしもうたか……」 (場面転換) (モノローグ)イルマ20「名も無きネラの民は、その命と引き換えに、私達を──  エストラの、古代の民を。大地に真実の風を吹かせられる、唯一の一族を──  風化の悪魔から、遠ざけてくれた」 トワ19「我々はとうとう、風を背に受け、立ち上がり、定められた道を進む時を迎えた!  風化の悪魔は既にネラを飲み込み、今にもエストラを飲み込もうとしている!  名も無きネラの民は、その尊い命と引き換えに、我々に使命を与えてくれた!  エストラの民よ!大地に真実の風を吹かせる、その旅に出る時が来たのだ!  一刻の猶予もない、強きものは弱きものを護り、若きものは老いたものを労われ!  明朝、日の出と共に出発しよう!」 (モノローグ)イルマ21「私達は進まなければならない。  風化の悪魔を止めるため、真実の風を吹かせるため。  それでも、それでも私は────……」 (回想終了) ミーラム01「イルマ姉さまー……」 イルマ22「ミーラムちゃん、どうしたの?……まあ、パルマ石?火をおこすの?」 ミーラム02「うん……」 イルマ23「そうか。じゃあ、使い方教えてあげましょうね」 ミーラム03「うん!」 パル01「あー、ミーラムこんなとこにいたー!薪はできたから、あとは火をつけるだけだぞ!」 イルマ24「ふふ、ちょうどよかったですね。行きましょう」 パル02「イルマ姉ちゃん、俺パルマ石うまく使えるようになったよ!」(フェードアウト) (場面転換) トワ20「そうか、今日はミーラムが火をおこしてくれたのか」 ミーラム04「うん!イルマ姉さまがね、教えてくれたの!」 カルン02「俺とパルが薪組んだんだぜ!な、パル!」 パル03「そうだよ!うまくなったでしょ?」 トワ21「うん。みんなもう、立派な理(ことわり)の子供だな。──ああ、イルマ」 イルマ25「お兄様、お帰りなさいませ」 トワ22「ただいま。イルマは子供たちに教えるのが上手だね」 イルマ26「そんな…この子達がみんな素直で、いい子だからです」 トワ23「あはははは、だってさ、カルン。お前いい子なのか?」 カルン03「おうよ!」 パル04「でもこの前こっそりチドリ豆食べてたんだよ!」 カルン04「ちょっ、ナイショだって言っただろ?!」 トワ24「こらーー、どこがいい子なんだ、んー?」 カルン05「うわあーーーー、逃げろーーーーー!!!」 ミーラム05「きゃーーーー!」(楽しそうに) パル05「わーーーー!」 (モノローグ)イルマ27「私は、時々立ち止まってしまうのです……」 (場面転換) トワ25「はー疲れたー…!子供達は本当に元気だな」 イルマ27「ふふ、一緒になってはしゃぎまわるからです」 トワ26「つられてしまったよ。…あの子達も、もうパルマ石を扱えるようになったか…」 イルマ28「ミーラムはすごく上手に使えますよ。パルは緑の理(ことわり)が得意みたいで、  カルンはあまり理(ことわり)に興味がないみたい」 トワ27「はは、カルンらしいな。カルンはきっと、私のように剣を扱うのが好きなのだろう」 イルマ29「…………」 トワ28「……?イルマ?」 (モノローグ)イルマ30「宮殿で力尽きてしまったあのネラの民の様に……  いつかお兄様が、風化の悪魔に飲み込まれてしまうかもしれない……」 イルマ31「…怖い、です」 トワ29「何を、怖がっているんだい?」 イルマ32「いつか私も、ババ様もマールも、子供達もみんな!風化の悪魔に飲み込まれて……  お兄様も…っっ」 トワ30「…イルマ、足を出してごらん」 イルマ33「足……?」 トワ31「陽光が、お前の足を縛る水晶の縄を溶かして切ってくれるように……」(剣を足に軽く当てる音) イルマ34「あ……」 トワ32「私も怖い。ここに至るまでに、たくさんの民を失った」 イルマ35「お兄様も、怖いのですか……?」 」 トワ33「そうだよ。人は誰しも辛い思いなどしたくない。  父上や母上のように砂に飲み込まれて死にたくはない、何も失いたくない失う事が怖い。  何よりも、自分の手が届く者を護れない事がたまらなく怖い。進めなくなる事が怖い。  だからこうやって、時折私の足を縛る水晶の縄を切っている」 イルマ36「お兄様……」 トワ34「イルマ、恐れることは悪い事ではないよ。失う事は皆怖いのだから。  一番よくない事は、恐れたままでいる事。恐れている自分を認めない事。  あるがまま、前に進もう。お前のまじないがかかった剣は、もう何度も私の縄を切ってくれているよ」 イルマ37「あるがまま……」 トワ35「そう、あるがまま。恐れてもいい、あるがまま前に進もう」 (モノローグ)イルマ38「私達の旅は続く。地の果てまでも、あるがままに。  恐れてもいい、恐れている自分を否定しなくてもいい。  旅を、続けよう。私達は古代の民、大地に真実の風を吹かせる、その日まで」