『イワシの頭も信心から』 A:男性。自殺したい人。頭に血が上ると訳わからないことを言い出すタイプ。 B:男性。魔法使い。自殺を止めたい人。結構テキトーなことを言うタイプ。 A01「死んでやるー!」 (※注:高層ビルの屋上で叫ぶAの声が空にこだましたり地上の騒音にかき消されたり) A02「会社を首になった。貯金も尽きた。腹減った。30過ぎても独り身で、ていうか女の子とま   ともに話したことなくて、友達いない、ケータイ鳴らない、2chで釣られる、腹は出てきた、   足は短い、頭も薄くなってきた。……はあ。死のう」 (SE:唐突にBが登場する、愉快な効果音) B01「やあ、僕は魔法使い。君が死んだら世界中のイワシが1匹残らずバラの花束に変わってしま   う呪いをかけたよ。今この瞬間、君の双肩にはだいたい300万トンくらいはいるであろうイ   ワシたちの命運がかかっている!」 A03「な、なんだってー!世界中の沿海域に住む人々にとって重要なタンパク源の一つであるイ   ワシを、バラの花束に変えるだって!?」 (※SE:バシッ、とBがAの頬を殴る音) B02「馬鹿ッ!イワシが絶滅しちゃうかもしれないんだよ。なのにヒトのことばかり気にして。   イワシたちだってヒトに食べられるために生まれてきたわけじゃないんだよ!」 A04「な、なんだってー!今俺が自殺したら世界中の海にいるイワシたちがバラの花束になって   しまうだって!?……ちょっと見てみたいかも」 B03「ふっふっふ。明日、世界中の海岸は打ち上げられたバラで真っ赤に染まるだろう」 A05「め、メザシは?メザシはどうなる」 B04「生きていようが死んでいようが関係ない。それはそれは華やかな花束になるだろうさ」 A06「あ、アンチョビは」 B05「もちろんバラに変わるさ。ピザの彩りにぴったり、真っ赤なバラの缶詰だ」 A07「煮干しダシの味噌汁を飲んだ人はどうなる」 B06「口の匂いが薔薇色吐息だ」 A08「見てみたい!」 B07「おっと。残念ながらそれはできない。イワシたちがバラに変わるのは君が死んでから。世   界中で君だけがこの事件を目の当たりにできないんだ。どうだ、悔しいだろう。それが嫌な   ら自殺なんか諦めなよ」 A09「くっそー!頼む、そこを何とか」 B08「ダメ」 A10「せめて一瞬、10秒だけでいいから」 B09「ダメったらダメ」 A11「くっそー、死んでやるー!」 B10「待て、死んでもバラは見れないぞ」 A12「俺をのけ者にして愉快な事件を楽しむ世界中の奴らに嫉妬!ああ憎い!世界が憎い!憎く   て憎くてたまらん死んでやる!」 B11「待て、落ち着け!」 A13「とうっ」 (※SE:ヒュー、とAが飛び降りる音) B12「やめろー!」 (※SE:Bの魔法が発動する、不思議な効果音) B13「やあ、僕は魔法使い。魔法で君の命を助けてあげたよ。これに懲りたら自殺なんて二度と   しないでね。自殺、ダメ、ゼッタイ」 A14「死なせろー!」