「被告人、前へ」 裁判長の声が法廷に響く そして 髪がぼさぼさに伸びた長髪の男が前に出た それを傍聴席でじっと見つめる男 検察が起訴状を読み上げていく 「罪名及び罰条、殺人、刑法第一九九条――――」 裁判長が口を開き、何か言いたいことはないか被告人の男に尋ねた 「全くの事実無根です。私は殺していない」 被告人の男は弁護側へチラっと目をやり、そう言った 傍聴席でじっと見つめていた男が震えだした 唇を噛み締め、後ろ姿の被告人を今にでも殺してやらんとばかりの目で見つめている 検察の冒頭陳述が始まった 犯行に至る経緯、犯行状況など、それは鮮明にイメージできるものであった その冒頭陳述を聴いてか、傍聴席の男は涙を流していた 彼の気持ちはよく解る 最初の裁判が終わった―――― 弁護側と被告人の自信に溢れた表情は傍聴席の男、そして検察を嘲笑うかのようにも見えた フンっと被告人の男が鼻で笑う イメージだけで決め付けてはいけない 彼は本当にやっていないのかもしれない しかし私はこのままでは全てが闇の中へ消えてしまう。そんな気がした 真実が知りたい 犯人、そして被害者しか知らない真実を知りたかった メモを取っていた手帳を閉じ、事件の真相を掴むべく私は事件が起こった大島へと向かった そこでまた殺人事件が起こるなど小説やドラマのような出来すぎた展開になるとは このときの私は全く思いもしなかった